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Split of Spirit 4

あらすじ

人造人間に人権が与えられた現在。

一人暮らしの高校生、「鳴田秀平」の家に突然現れた「南場」。

南場はここ最近になって鳴田の住む街で犯罪が増えてきているので、家の警備のためにやってきたらしい。

しかしここ最近の犯罪はどうやら事故ではなく、組織化した人造人間が引き起こしているらしい。

鳴田は妊婦を襲う人造人間を発見して事態の深刻さを悟った。

しかし南場はその事実を以前から知っていたらしく、鳴田に組織のアジトを見せると言って、鳴田を気絶させる。

鳴田が起きるとそこは既に使われなくなっていた工場で、「武内」という人造人間と相対する。

その男との戦闘で気を失った鳴田は、家で南場に介抱されており、スマホである動画を見せられる。

それは、武内と戦闘している動画だった。

しかし、鳴田が気を失った後で、自分がなぜか武内ともう一度戦い始めている。

さらに意識が飛んでいるはずの自分は、今の自分よりも遥かに強い。

事態がよく理解できていないまま、南場に告げられる。



「お前は人間じゃない。」

「え?」

「いや、ちょっと言葉足らずだな、」

南場は頭を掻く。

「えっと、正確に言うと鳴田の脳の一部、だいたい半分?くらいが人間由来のものじゃない。」

「……………それってさ、」

「そう。さっきから言ってるだろ、お前は『部分的に』人間じゃない。」

「……………」

「まぁ、ひとまず飯だ、飯。」

ベッドに座り込んでいた俺を軽々と持ち上げて、ダイニングの椅子に座らせる。

俺は人間だと思って過ごしてきた。

俺も彼ら、人造人間と同じように、非人間的な扱いを受けるのだろうか。

人造人間は、作業効率改善のため、腕や脚を機械にしたり、人間とは違う学校に入れられて、一生死ぬまで、誰かの下僕であり続ける。

人並みの幸せを望んでいた。

普通に大学に進学して、公務員に就職して、結婚して家族ができて、老後は穏やかに花でも愛でながら過ごすような生活。

「…………どこで、俺が人造人間って分かったんだ。」

「鳴田は人造人間ではないんだがな、正確に言うと。

俺が人造人間なだけで。」

「…………!!?」

「あのクズ男に、コンクリのブロックで殴られたときは、流石にバレたかって思ったけど、意外に気づかれないもんだな。」

「………たしかにそう言われてみると…」

「まぁ、人造人間でも俺みたいに、感情がむき出しのやつは少ないけどな。」

「いや、俺がこの前戦った奴は?」

「あれもかなりマイノリティだと思うぞ。」

鳴田はいまいちピンときていなかった。

これまで接してきた南場は好き嫌いが多かったり、怒りや落ち込みなどの感情の起伏が激しかった。

これまで鳴田が見てきた人造人間と言えば、人間の代わりに、休みなしでひたすらに働かされている姿だ。

人造人間がトラブルを起こしたり、感情を表現している様子は見たことも聞いたこともない。

「俺は人間じゃないのか?」

「そう言われると答えにくいんだがな、例えば義足をはめていたとしても、人工血管が通っていたとしても、それは一人の人間だ。」

「あぁ」

「だけどお前のは話が違う。

脳が半分別なんだ。

精神が二つ、それも人間と人間じゃないものの二つに分かれている。」

「そのことを話したのは孤児院の爺ちゃんか、」

「まぁあの人なら知ってはいるだろうな。」

「今から会いに行く。

南場ちゃんもついてきて欲しい。」

「そりゃまた唐突だな、でもその脚じゃ無理だろ。」

「あ……………。」

幸い今は春休みなので休養する時間は十分にあった。



一日中ゆっくり休むと、足の痛みも引いてくる。

「もう大丈夫そうだな。」

「やっと行ける。」

「別に電話すればいいのに。」

「これは直接会って話さないといけないことだと思う。」

「あっそ……。」

南場の作ったうどんを食べ終えると、荷物をまとめて、すぐに出発する。

じいちゃんに会うのは久しぶりで嬉しいはずなのに、駅に向かうまでの足取りが重い。

南場は駅に向かうまで一言も喋らなかった。

じいちゃんのところへ帰省するのは一人暮らしを始めて今日が最初だ。

きっとじいちゃんなら俺の出生について何か知っているだろう。

色々なことをじいちゃんに問い詰めなければならない。

育て親としてはもちろん感謝しているが、俺の出生について隠す必要はないはずだ。

電車に揺られながら頭の中でここ最近起こった出来事を整理する。




ドアが開くと、駅の入口周りに植えられている桜の花が少しだけ咲き始めているのが見える。

木造の駅で、その色味からかなりの年月が経っているのが分かる。

「なんだか久しぶりだな。」

「来てなかったのか?」

「そういうわけでもないけど」

「久しぶりだな………秀。」

駅の改札を出たあたりで、じいちゃんが出迎えてくれた。

「おじいちゃん、名前間違えてますよ、秀平ですよ、秀平。」

「昔から俺のことはそう呼んでるんだ!」

「はっはっは!!まだボケないさ。」

最初から重苦しい雰囲気になると思ったが、南場のおかげで助かった。

じいちゃんは孤児院の所長だ。

身寄りのない子供を引き取っている。

ただツリーハウスを自作したり、椅子や机などの家具を一人で作るなど、俺とは違いかなりワイルドな漢だ。

世間話をしていると、施設に着く。

じいちゃんの部屋で座椅子に座って向かい合う。

「じゃ本題に入るけど、」

「あぁ。」

「じいちゃんは俺が人造人間だって知ってたのか?」

「そうだ。」

「なんで教えてくれなかったんだ。」

「お前を助けてくれた人の頼みだ。」

「俺を助けた………」

「秀が産まれたときは正真正銘人間だと聞いている。

お前の両親は、お前が産まれると、すぐに外国へ国籍を移した。

互いの両親からはものすごく反対されたらしいからな。

それで、その行った国ってのがまずかったんだ。

結構、紛争が多発している地域で、お前の両親も秀もそれに巻き込まれて、大怪我を負ったんだ。

特に秀の怪我が一番ひどくて、左側の脳が使い物にならなくなったらしい。」

「脳が…………」

「だから当時、お前の両親は、その国の研究機関に、息子を連れて行った。

そこでの治療でお前は息を吹き返したんだ。」

指をさされる。

「その研究機関の人間から預かってほしいと頼まれたのが俺ってわけだ。」

「じゃあ俺の父さんと母さんは」

「亡くなられてる。

お前を研究所に届けた直後にな。」

「そうか……………、まぁ生きてるなら会いに来るよな。」

「意外と落ち込まないんだな。」

南場が口を開く。

「まぁ会ったことないしな。」

正直なところ、両親が亡くなっていることは悲しいというより唖然としたというほうが適切だ。

「これも渡さないとな。」

じいちゃんは引き出しから、一枚の写真を取り出す。

渡されて、見るとそれは家族の写真だった。

両親と赤ん坊が一緒に写っている。

「この二人がお前の両親だ。」

「うん、分かるよ。」

涙が出てくる。

なんで俺を残して逝ってしまったのだろう。

せめて両親の顔くらい覚えていたかった。

「お前は愛されていたんだ。」

じいちゃんの言葉で、鳴田は泣き崩れた。

自分の出生について、色々と詳しいことを聞きたかったが、泣き止んだときには、もう日が暮れていたのでひとまずじいちゃんの孤児院で一泊させてもらうことになった。

じいちゃんと久しぶりに、二人で風呂に入る。

「で、なんで俺は、ここに連れてこられたんだったっけ?」

「そういえば、話がまだ途中だったな。」

湯船に浸かる。

「研究所の人が言うには、秀が蘇生できたのは、ある技術のおかげだそうなんだが、その技術を狙って色々な国から襲撃を受けていたらしい。

んで、これ以上危険な目に合わせられないからって、両親の知り合いだった俺のところを訪ねてきたんだ。」

「じいちゃんのことを知ってたのか?」

「あいつらが子供の頃から知ってるよ。

まだ孤児院を始める前だったけどね。」

「あと南場ちゃんが俺のことを兄弟って言ってたんだけど、本当にこの施設にいたのか?」

「いや、全然知らないぞ。」

「じゃあ何なんだあいつ。」

客間に戻ると、布団が敷いてあり、南場は疑われているともつゆ知らずもういびきをかきながら寝てしまっている。

「ここ最近何かと大変だな………。」

「そうか。」

「うわっ!起きてたのかよ!!」

「いつでも俺は半覚醒状態だ。

………辛い状況にしてしまってすまないな。」

「なんだよそれ………。

でも南場ちゃんが来てから、俺は全く退屈してないよ。

悪い意味で。」

「悪い意味なのかよ」

南場は低い声で笑う。

しかし、自分の人生を大きく変えかねない出来事が連続しているのは事実だ。

自分の心が保つか心配になる。

ひとまず身体を休めることに専念する。



朝起きて、飯を食わせてもらったあと、駅に向かう。

「見送らなくていいのに。」

「まぁそう言うなって」

「色々とお世話になりました。」

鳴田は頭を下げる。

「なんだ急によそよそしい。

いつでも会いに来ていいんだぞ。

待ってるからな。」

「じゃあまた来るよ。」

「あぁ」

俺達が電車に乗り込んで駅のホームが見えなくなるまで、じいちゃんは見送りながら手を振ってくれた。

「いい人だな、鳴田のおじいちゃんは。」

「うん。」

南場ちゃんは行きの電車とは打って変わって明るく話し出した。

少し鬱陶しかったので、うるさいと言うと、またいつものように落ち込んでしまった。

これもある意味会話のテンプレになってしまった。

あっという間に家の玄関に着く。

行きと帰りで、体感時間が大きく違った。

鍵をさして回し、ドアノブに手を伸ばす。

「ただい…………」

ふと違和感に気づく。

「どうしたんだ、急に固まって。」

「誰かが…………」

「誰かが?」

落ち着いて息を整えて話す。

「家の中に侵入してる」







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