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Split of Spirit 3
あらすじ
人造人間に人権が与えられた現在。
一人暮らしの高校生、「鳴田秀平」の家に突然現れた「南場」。
南場はここ最近になって鳴田の住む街で犯罪が増えてきているので、家の警備のためにやってきたらしい。
しかしここ最近の犯罪はどうやら事故ではなく、組織化した人造人間が引き起こしていると仮説を立てる。
鳴田は妊婦を襲う人造人間を発見して事態の深刻さを悟った。
しかし南場はその事実を以前から知っていたらしく、鳴田に組織のアジトを見せると言って、鳴田を気絶させる。
鳴田が起きるとそこは既に使われなくなっていた工場で、「武内」という人造人間と相対する。
武内は鳴田のみぞおちに蹴りを浴びせている。
「うっ…」
鳴田は勢いよく壁に激突する。
「どうした、そんなもんか?」
「くそっ!」
この状況だと逃げることもままならない。
かと言って交戦できるほど自分が強いわけでもないのは理解している。
なにか武器を探して最低限、抵抗しなければならない。
咄嗟に自分の目に入ったのは鉄パイプだった。
両手で鉄パイプを持ち、こちらへ歩いてくる武内の方へ向ける。
「おっ、いいのがあったね〜」
気持ちの悪い微笑み方だ。
俺が武器を握ってもなんの恐怖も抱いていない。
「じゃあ…俺も」
そういって背中に手を伸ばして、鞘から刀を取り出す。
「ふふっ、震えてる。脚。」
「……」
「そりゃあ怖いよね〜」
刀を振り回す。
「せっかくだし…ね……じっくり楽しもう。」
一気に距離を詰めて飛びかかってくる。
思わず鉄パイプを体の前に持ってきて、刀を受け止めようとする。
「うりゃッ」
武内の刀を振る動作はフェイントで、さっき蹴られた場所を思い切り殴られる。
倒れ込みそうになるが、ここで、膝をつくとさらに追撃を食らう。
その一心で踏みとどまり、鉄パイプをフルスイングして武内の側頭部に命中させる。
だがあまり手応えはない。
ため息をつく。
「弱いね…」
直撃しているはずなのに、威力が足りないせいなのか、全く効いている様子がない。
武内は刀を持ち替えて、柄の部分を鳴田のこめかみに直撃させる。
「がっ……!!」
鳴田は白目を向き、その場に膝をついてへたりこむ。
「思ってたより、面白みはなかったな………」
<三>
ため息をつきながら、武内は鳴田に近づく。
鳴田のポケットに入っている証拠のスマートフォンを破壊しようと、ズボンに手を伸ばす。
バキッという鈍い音とともに武内の口元に痛みが走る。
気づくと武内の体は鳴田から離れていた。
「え?」
「………」
武内はすぐに身体を起こす。
気絶したはずの鳴田が、立ち上がり、拳を構えていた。
「なんでお前立ち上がれる?」
「………」
「意識がないのか?」
「………」
「おいおい、楽しくなってきたな!!」
武内は刀を鞘に戻し、ステップを踏みながら、鳴田との距離を詰める。
ジャブを仕掛けるも、それは易易と鳴田にかわされる。
攻撃によってできる隙。
鳴田の拳が武内の右頬をかすめる。
明らかにさっきまでとは違う。
戦闘スタイルそのものが、根本から変わっている。
「これは………」
「………」
殴り合うものの、互いに少しかすめる程度で、決定打が入らない。
「仕方ないな……、悪く思うなよ。」
拳を止めた武内に、鳴田は腰を入れた右ストレートを繰り出す。
が、それは途中で止まる。
「本能か?」
武内は、鳴田が腕を自分の間合いに入れた瞬間、抜刀するつもりであった。
ため息を付きながら、もう一度刀を抜いて、斬りかかる。
「………」
まるで既に見切っているかのように、斬撃を紙一重で躱す。
刀を振り終えるたびに、鳴田からカウンターが飛んでくる。
懐に入られて、突き出される拳の嵐は、捉えきれない速度ではないが、刀を握っているにも関わらず、臆することなくひたすらに向かってくる。
「刀持ってんだぞ。」
武内が鳴田の正中線に向かって突きを繰り出す。
鳴田は近づいてくる刃先を見つめながら、身体を捻って交わす。
(これも避けるのか?)
「………」
避けたはずの刀に鳴田が近づく。
(掴む気か……!?)
鳴田が刃をつかもうとしていることに気づくと、距離をとってもう一度刀を構える。
「アピールか?調子のんなよ。」
「………」
「面白いやつだな、どうやって潰すか」
刀を鞘に収める。
これまで武内が武器を使って相手を制圧する必要はなかった。
しかし、今まで交わした戦闘の流れで、一番にポテンシャルを感じているのは目の前の人間。
「放っておくとどうも厄介そうだね。
大義名分もできたことだし。」
武内の今出せる最高速で、上半身をかがめながら抜刀する。
一文字斬りで鳴田の右脇腹を捉える。
「………」
鳴田は垂直に跳躍して、向かってきた刃を足元に押さえつける。
「人間の身体か?それが」
武器を破壊されてたじろいだ武内を後ろ蹴りで、吹き飛ばす。
起き上がろうとした武内の首を鷲掴みにして、折れた刃先を、目に突き立てようとする。
「おいッ!!」
武内が叫ぶ。
鳴田はお構いなしに腕を振り上げる。
「もういい」
突然現れた南場が鳴田の振り上げた腕を抑えていた。
「………」
一瞬躊躇のような時間が生まれる。
その意識もすぐに切り替わる。
武内にしたのと同じように南場に殴りかかった。
南場は素早く後ろに回り込んで、胸ポケットから取り出した銃を構えて鳴田に目掛けて発砲する。
「ッ………」
鳴田は前にのめり込むように倒れ込む。
「助かったぜ、サンキューな、、」
起き上がった武内が南場の肩を叩いて話しかける。
「お前もだ」
銃口を武内の首に向けて、次の言葉が出てくる前に撃つ。
鳴田は自宅の寝室で静かに眠っていた。
「はっ………!!」
身体中の燃えるような痛みで飛び起きる。
「やっと起きたな……」
頭が痛い。
徹夜していて昼過ぎまで寝ていたときのような頭にモヤがかかったスッキリしない気分だ。
南場の顔を見てみると、いつも通りだった。
聞きたいことは山々あったが、ひとまず家まで無事に帰宅できていたことに安堵する。
気分が落ち着くと、南場に対する怒りが込み上げてくる。
「おい!!!」
「なんだよ、急に大声だして、」
「お前、俺を拉致しただろ!!!何食わぬ顔してるからスルーするところだったわ!!!」
「鳴田って、怒ったらそんな口調になるんだな。」
「グーで殴るぞ!!!」
「まぁそう慌てんなって、丸一日寝てたんだからひとまず飯を食べたらどうだ?」
「………」
南場の言う通り、枕元のデジタル時計の日付は最後に確認したときから2日後になっていた。
「じゃあ……お言葉に甘えて………」
ベッドから脚を下ろそうとした瞬間に、膝に全身を襲っているものとは比べ物にならない鋭い痛みが走る。
「痛ぇ!!!!」
「………やっぱりか?」
「やっぱりってどういう意味だよ」
「お前の身体が追いついていない。」
「何に?」
「………これに関しては見てもらったほうが早いかもしれないな。」
そう言って南場はスマートフォンを取り出して、動画を開く。
「これ見てみろ。」
「………」
差し出されたスマホを黙って受け取る。
そこに映っていたのは昨日の自分と襲ってきたサイコパス野郎。
かなり最初の方、俺が人造人間の組織について質問をした時ぐらいからの映像だ。
あの日と同じように大柄な男が話に割って入ってきた。
そして録音していたことがバレて、サイコパス野郎に襲われる。
事の始まりからいる、なおかつ動画を取る余裕があったなら、俺が襲われているときに助けて欲しかった。
しばらく戦闘して途中で、刀の柄で殴られて鳴田の意識は途切れ、倒れる。
「これの何が?」
「まぁよく見ろ」
俺のポケットに男が手を伸ばした瞬間、背後へ吹き飛んだ。
全く身に覚えがないが、戦っているのは紛れもなく自分だった。
「どうなってるんだ」
到底目に追えないスピードでの殴り合いが始まる。
俺が男の刀を脚でへし折る。
蹴り飛ばし、俺が男に馬乗りになったところで、動画は終わった。
南場はスマホを取り上げてさらりと告げる。
「お前は人間じゃない。」