![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/138802859/rectangle_large_type_2_a93ebbd64a5c21ab73e6ffd5501be9bc.png?width=1200)
Split of Spirit 5
あらすじ
人造人間に人権が与えられた現在。
一人暮らしの高校生、「鳴田秀平」の家に突然現れた「南場」。
南場はここ最近になって鳴田の住む街で犯罪が増えてきているので、家の警備のためにやってきたらしい。
しかしここ最近の犯罪はどうやら事故ではなく、組織化した人造人間が引き起こしているようだと仮説を立てる。
鳴田は妊婦を襲う人造人間を発見して事態の深刻さを悟った。
そして、鳴田自身の意識に異変が起きていることを察知する。
自分の出生についてなにか知っているであろう育て親である孤児院の所長の「じいちゃん」を尋ねる。
そこで、
鳴田が赤子のときに大怪我を負い、何らかの研究機関の技術によって一命をとりとめていたこと。
鳴田の両親が亡くなっていたことを知る。
鳴田はそれを受け入れて、じいちゃんのもとを去り、家へと帰宅する。
ドアノブに手をかけた時、違和感に気づく。
「誰かが家に侵入してる」
冷や汗が鳴田の背筋を伝う。
「…………なんでそう思うんだ?」
「俺、出かける前にはドアの上の方に黒い紙を挟むんだよ。」
「で、それが無いと。」
「あぁ、間違いなく出発前に挟んだ。」
「2日とも別に雨も風もそれほど無かったしな。
紙が自然になくなるとも思えない。」
「入りたくないな、南場ちゃん先入ってよ。」
「やだよ、」
「この前の件、忘れてないからな。」
鳴田は南場を睨みつける。
「……………お前の方がよっぽど怖いな。」
南場は渋々鍵を回してドアを少しだけ開いて中の様子を確認する。
「空き巣ってわけでもなさそうだな。」
「誰もいなさそう?」
「多分な。」
二人で部屋の中を見て、何も盗まれていないことを確認する。
「何も取られてないんじゃ警察呼んでもしょうがないよな」
「まぁ証拠ならある。」
「マジ?」
南場はおもむろに、部屋の観葉植物の植木鉢の中に手を伸ばして、小さな何かを取り出す。
「テッテレ〜、監視カメラ〜!!」
「……………」
「はい、すみませんでした。」
「謝りゃ済むとでも思ってんだろ、」
「まぁまだ役にしか立ってないし、許してくれよ?」
「映像見たあとでぶち壊すからな」
「……………結構高かったのに。」
既視感があるが、また南場のスマホで動画を開く。
俺達が出ていって、2時間後くらいに何者かが部屋に侵入してきた。
不法侵入しているにも関わらず、マスクも被らずに堂々としている。
二人組だった。
一人は、この前のサイコパス男と会話していた大柄の男。
あの男からは「芝田」と呼ばれていたのを覚えている。
もう一人は、俺と同い年くらいのメガネを掛けた痩せ型の少年だった。
「やっぱリーダーが直々に動いているのか。」
「リーダー?大柄な方が?」
「いや、こっち」
そう言って南場が指をおいたのは、痩せた少年の方だった。
<四>
「この俺と同じくらいのやつが、あの組織のリーダーなのか?」
「恐らくは、」
一体どんな能力があれば、あの人造人間たちを従わせることができるんだろうか。
どうやら彼も監視カメラに気づいた様子で、カメラに向かって手を振っている。
「バレてるじゃん、、」
「俺も直接、リーダーに会ったことはないんだ。
組織の中で、『ここのボスは少年だ』って噂を聞くだけで。」
あの大柄な男が後ろからついて行っていることから、おそらくあの少年が、かなりの地位にいることに間違いはないだろう。
「ここにはもう居られないな……………」
南場がため息をつく。
「なんでお前が落ち込むんだよ、ため息つきたいのはこっちだわ。」
「俺の部屋に来い、」
「は?」
「………絶対に俺の家に上げるつもりはなかったんだが、状況が状況だしな。」
「お前、ニートじゃなかったっけ?
ちゃんと住む家あるんだね、、なんか意外。」
「放っといたら、どんどん辛辣になるな、」
鳴田が住んでいるマンションから30分ほど歩いて隣町との境界を超える。
近くに目立った建物はなく、山のそばに一軒家がポツンと佇んでいるだけ。
雑草が膝丈ぐらいまで伸びていて、あまり手入れされていないようだ。
「お邪魔します」
「どうぞ、」
玄関はそれなりに整頓されている。
が、部屋の奥には紙束が散乱している。
「何だあれ?」
「捜査資料だ。」
「捜査資料をあんなふうに散らかしていいのかよ、ちゃんとまとめろ。」
「めんどくせぇ」
「俺も今日から住むんだ、文句言わずに片付けてくれ。」
嫌そうな顔をこちらに向けながら、かがんで紙を拾い上げる。
「まぁ飯ぐらいは作ってやるから、」
キッチンに向かう。
「あ、ちょっと待」
「うわっ……………」
カップラーメンの容器や割り箸が山のように積み上げられている。
見るだけで吐き気がしてくる。
「なんで捨てないんだ、馬鹿。」
「う〜ん」
「『う〜ん』じゃないだろ、」
ひとまず持ってきた荷物の整理よりも先に、この散らかった部屋をどうにかしなければならない。
でなければ、人造人間に殺される前にアレルギーで死んでしまう。
注意喚起!! 食事中の方、覚悟してスクロールしてください。
近所のホームセンターで、片付け道具を買い揃える。
一番ひどそうな台所から始めることにする。
「はぁ………、そもそもまとめてやらずに、ちょこちょこ片付けてればこんなことにはなってないんだよ。」
「おう、悪いな。」
「…………」
黙々と掃除に集中する。
大量の割り箸が突き刺さったカップラーメンの容器を持ち上げた時、黒光りする物体が目に入る。
「…………………うわぁッッ!!」
「どうした!!」
黒光が南場へ向かって走ってゆく。
ギョロッと南場の目が動いたかと思うと、縦横無尽に駆ける黒光を目で追っている。
乾いた破裂音がした。
南場は黒光を俺に見せないように紙で包んで外に放り投げてくれる。
「あ、ありが………、」
「やべ、さっきの紙、捜査資料だわ………………」
「え?」
「取りに行ってくる。」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
一騒動あったが、ひとまず生活できるレベルぐらいには片付いた。
「とはいえ、まだホコリまみれなんだよな、」
「そうか?」
南場が床を指でなぞる。
指が白くなるが、幻想的な表現ではない。
「ここじゃ、飯は食えねえよ」
「じゃあ外食するか?」
「外食って簡単に言うけどな、」
「ファミレスくらいなら大丈夫だろ?」
「まぁ……………。」
南場にそう提案されて、久しぶりに外で飯を食うことにする。
近くのファミレスまで徒歩数分でたどり着く。
「サイ●リヤか、俺初めてだわ。」
テレビなどで雰囲気は知っていたが、鳴田にとって初めての体験だった。
「へぇ、別にそこまで意外でもないけど。」
店員さんに案内されて、テーブル席につく。
「あ……………。」
そこには、今朝、監視カメラの映像で見たメガネの少年が座っていた。
少年は後ろを振り返る。
「君と今、ここで会うつもりはなかったんだけどな。」
「お前………………!!」
「お前じゃなくて、平良だよ、」
色々な思考が駆け巡るが、一番に聞きたいことをぶつける。
席を立ち、平良の顔が見えるように回り込む。
「なんで君たちは人間を殺すことを目的にしてるんだ」
「それはただのカムフラージュに過ぎないよ。」
「……………」
「ここでは暴れるつもりはないし、食事を楽しもうよ。」
テーブルの奥側にはもう一人黙り込んで座っていた。
戦うときは今ではないと判断したので、仕方なくテーブル席に戻る。
注文したミラノ風ドリアと、カルボナーラが届く。
提供が早いのも、ファミレスの良いところだと感じる。
特に今、そのありがたさがしみじみ伝わる。
味わいながら胃の中にかき込む。
食い終わって、足早に店を出る。
「それで………」
後眼に鳴田たちが店を出たのを確認して、平良が切り出す。
「あいつ等、吉沢じゃなくて俺のことをボスだって思ってるらしいな。」
「まぁそう思わせておけたならいいさ」
ファミレスを出た二人が日の沈みかけている住宅街を歩いている。
「組織の名前はなんて言うのよ?」
「アンド ロイド」
「あれ人間を潰そうとしてんのに、人造人間たちは、自分たちのこと人造人間って名乗ってるのか?」
「アンド ロイドはand とLloyd、Lloydはウェールズ語で、『灰色』という意味だ。」
南場への質問に割り込んで答える。
振り向くと「芝田」がそこに居た。
「なぁ、鳴田、なぜお前が生きている?」
「…………」
芝田は続ける。
「武内をどこへやった。」
「さぁね?知らないよ。」
芝田は目線を俺からそらして南場へ向ける。
「おい南場、なぜコイツが生きていて、武内が消えている?」
「任務遂行のためだ。」
「そうか。」
深いため息を吐いたあと、芝田はこちらへ向かって猛進してくる。