鶏が先か 卵が先か case④
しかし問題が発生した。左の小屋に飼われている兎達が大繁殖しだしたのだ。
兎の繁殖力はすさまじい。5匹、いや6匹もの子兎達が、いつの間にか小屋の中をうろうろしているではないか。
子兎達は皆毛並みがふさふさでとっても可愛い。しかし飼育小屋には定員がある。あまりに増えられては困るのだ。
衛生を保てないし、餌代もかかってしまう。
初めのうちは、誰か希望者に貰って行かれたりもしたが、それも追いつかなくなってきたようだった。
兎の大繁殖と並行して、天然記念物である東天紅鶏夫婦の卵の孵卵作戦が、私と友達の間で始まった。
雌鶏のエリザベスちゃんは、よく卵を産んでいた。しかしそれはいつも放っておかれ、いつの間にか割られてぐちゃぐちゃになっていた。
私と友達は、そんな卵を見て、ふと、卵を孵すことは出来ないものかと、相談し合ったのだ。その卵が有精卵なのは間違いないのだ。
後は生まれた後のその卵のお世話さえ上手くすれば、孵るかもしれない。
そう思った私達は、早速担任の先生に、報告がてら、相談しに行った。
詳しくはあまり覚えていないが、学校には、「孵卵器」なる物があったのだ。結果的にはその機械で、試してみようという事になった。
孵卵器は、化学実験室の準備室に、置いてあったと思う。私の教室からは、比較的近かった。
私とその子は、他の数人の子達も巻き込んで、「孵卵器で卵を孵そう作戦」を、決行することになった。
エリザベスちゃんが産んだ卵を見つけたら、卵がまだ温かいうちに、孵卵器に入れる。冷め切ったら、孵らないようなのだ。まだ温かい卵を孵卵器に入れたら、1日1回、霧吹きで水分を補給し、そしてそっと転がして角度を変えるのだ。そんな知識を、動物好きの友達に、教えてもらった。
孵卵の条件。保温だけでなく、水分補給や転卵が必要だったなんて。
今ならネットですぐ調べられるのだが、当時は全くのアナログ時代。本で調べるか人から聞くしかなかったのだ。
卵の孵卵は、非常に難しかった。卵自体は沢山産んでくれるため、産まれた数個の卵を孵卵器に入れて試すのだが、一向に孵る卵はなかった。
5割か7~8割の成長で止まり、殻の中で亡くなっていることがほとんどだった。
割ってみると、卵の中でヒナになりかけている。お腹に卵黄を、まだ付けている状態なのだ。とても悔しかった。あと一息なのに、いつもいつも、途中で成長が止まってしまう。
「何が悪いんだろう?」
友達と話合い、いつもいつも自問自答していた。
飼育小屋でエリザベスちゃんが産んだ卵を見つけると、孵卵器に直行し、すぐ中に入れた。上手く孵ったことはまだ一度も無かったが、もう癖になっていた。
卵の中で亡くなっていたら、どの成長過程まで進んだヒナなのか、状態を確認することも、当たり前になっていた。
お腹にまだ卵黄を付けた未熟なヒナ達。
部屋の中は、卵黄の匂いと成長過程の未熟な生々しいヒナの臭いが混ざった、独特の卵黄臭が、常に漂っていた。