ヒルチャール♂の日常
俺はヒルチャール♂
まだ名前は貰えていない。
成人したばっかりで、まだ弓も持たせて貰えないし、盾も貰えてない。
でも、いつかは村長みたいな立派な大盾使いとして名を馳せたいと願っている。
村の衆からは成人の証として棍棒をもらった。
これは俺の今の相棒だ。
そして、まずは何回もその棍棒を振り回すのだと先輩から教えて貰った。
そうやって何回も鍛錬を重ねれば自分にあった武器も選べるし、その武器を扱えるようになるらしい。
俺は詳しい事は分からないが、その言葉にヒルチャールの戦士としての矜恃を感じた。
多分、この先輩も昔は俺みたいに名無しだったんだろう。
それでも立派に戦い続けたからこそ、盾持ちとして村のみんなから認められてるのだ。
体はまだ大盾持ちみたいに立派ではないけど・・・
それでもいつかは村1番の盾使いになるんだろうな。
凄いと思うし、俺は先輩を尊敬している。
はやく俺も岩の盾を貰えるように頑張らないとな。
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そんな俺にも幸せな日が増えた。
まだ未熟だけど、プロポーズが成功したのだ。
お相手はいつも隣りにいた幼なじみのヒルチャール♀
♀にしては珍しく、戦士職を希望としている。
昔っから漢気が強く、ヤンチャな奴だ。
そんな彼女に俺は惚れていた。
ヒルチャール♀は人気者だったから村の実力者からよく求婚されていた。
でも、彼女は断り続けた。
そんな彼女を見ると、俺は無性に胸がざわついた。
このままでいいのか?
いや、いいはずがない!
玉砕覚悟で告白したところ、彼女は受け入れてくれた。
だから、俺は彼女を守る強さが欲しい。
その為にも力が欲しい。
はやく立派な戦士になりたい。
最近はヒトが集落を襲う事件が多いみたいだ。
少し不安が募る。
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村のみんなと新たな居住地を求めて移住した。
水辺に遺跡が並びたついいところだ。
ヒトは大昔から生きていて、文明を持っていたらしい。
その跡地に最近、村のみんなで移住したのだが・・・
想像以上にいいところだ。
渓谷の風が気持ちいい。
魚は取れるし、イノシシも山に行けばいる。
雨風も凌げるし、他のフィルチャームの集落ともアクセス出来るから、交易にも困らない。
のどかな平和な一時だ。
しかし、外敵には気をつけなければならない。
特に遠くの地では、ヒトによって集落が壊滅させられた事もあるらしい。
何故か胸騒ぎがする。
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ヒルチャール♀と一緒に遺跡の瓦礫の上で横に並び、景色を眺める。
水面には2人の姿が映る。
吹き抜ける峡谷の風が気持ちいい。
これが幸せなんだろう。
重なり合う手と手から温もりを感じる。
一生一緒にいたいな。
俺はそう思った。
まだまだ、未熟だけどそれでもヒルチャール♀を守りたいその気持ちは本物だ。
♀「ねえ」
♂「なんだ?」
♀「幸せだね」
♂「そうだな」
語り合う2人。
俺達は幸せの筈だ。
でもなんだ?
この胸騒ぎは・・・
ザッ
背後から音が鳴る、見張りに誰か来たのか?
2人で同時に立ち上がる。
その瞬間。
ヒルチャール♀が剣圧によって吹き飛ばされた。
その斬撃は美しく、残酷に襲いかかる。
まるで刃の花が舞うようで。
一瞬の出来事に、俺は何も出来なかった。
ヒルチャール族は泳げない。
しかも、急に襲われたんだ。
呼吸もままならず、水を大量に飲みもがき苦しむ姿があった。
腕を必死に虚空に掲げるが、何も掴めずに。
ヒルチャール♀は死んだ。
呆気ない死に様だった。
ナゼオレハマモレナカッタ。
コロシタヒトガニクイ。
俺は棍棒を片手に人に飛びかかった。
敵わないと悟っても。
俺は殴り掛かることしか出来なかった。
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数秒後
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パイモン「何だか可哀想だな」
パイモンが水面に溺れた2匹を見て問いかける。仕方ない事だ。
殺らなければ殺られる。
それに、このヒルチャールは何となくだが戦士な気がした。
そこに情けをかけることこそ、このヒルチャールの誇りを穢す事となっただろう。
水面には壊れたヒルチャールの仮面が2つ仲良く並んで落ちていた。