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【医学生が観る】『ドクターX~外科医・大門未知子~スペシャル』
初めまして。私は地方医学部で現在6年生のイヤトロスです。今の時期は2か月後の医師国家試験に向けて詰め込み勉強をしないといけないのですが、息抜きがてら観ていた医療ドラマがなかなか面白いと思ったので感想を記事にしてみます。
せっかく医学をかじり始めている立場の人間なので、その視点を生かしたものを書いていこうかな、と考えています。前置きはこれくらいで感想へ。
今回のドラマ:『ドクターX~外科医・大門未知子~スペシャル』(2016)
題材はこちら。
ツッコミどころ満載で楽しいドラマ
「なんなんだ君は!誰の許可を得てこの手術室を使っているんだ!」
いろいろ突っ込みたいことはあるが、ぶっちぎりで気になったのがコレ。
冒頭の患者を運び込んだオペ室でお偉いさんから大門に向けられた言葉
「なんなんだ君は!誰の許可を得てこの手術室を使っているんだ!」
冒頭、患者が運び込まれた手術室でお偉いさんが大門に向けて放ったこの一言。いろいろ突っ込みたいことは山ほどありますが、これがダントツで気になりました。ちょっと待ってください。少なくとも大門は更衣室で着替え、術前の手洗い、ガウン装着、さらにオペ室スタッフと役割分担を済ませているはず。なのに周囲の人たちは「この人、誰?」と思いながらも問いただすこともなく「メス✋」にまで至っているわけです。不審者でも堂々としていれば執刀できてしまう恐ろしい病院……。明日の新聞一面は確実に「不審者が執刀!!病院セキュリティの穴」ですね。四半世紀は語り継がれる大問題です。
専門医のライセンス(とたたき上げのスキル)が武器
劇中では専門医のライセンスが非常に重要な武器として描かれていますが、実際はどうなのでしょうか。実習中に「専門医の認定があると少し有利になるけど、大して役に立たないことも多い」と何度か聞いたことがあります。このギャップには少しモヤモヤしました。
いたしませんリスト
![](https://assets.st-note.com/img/1733539103-xnztAhajqb7UQJpD1NLS4TOI.png?width=1200)
大門の雇用条件に関するユニークなリスト。さすがにギャグなので深く突っ込むのも野暮ですが、自分が初期研修医になって「ゴルフの送迎」や「愛人の隠蔽工作」などを指示されたら、きっとこのドラマを思い出すでしょう。そして絶対にやりたくない。
100%完璧な手術をします。私、失敗しないので。
手術を渋るVIP患者に大門が言い放った言葉。こんなこと言う医者は今すぐクビです。お互いのゴールを完全に明確にできない以上、手術でできることをどれだけ完璧にやっても「思っていたより回復できていない。約束と違う」という主張をしてくる患者が出てくるかもしれません。医療者が治療効果について100%を保証するのはどうかと思います。これが「必ず良くなりますからね」なら、なんらかの状態が良くなれば達成なのにハードル無駄にあげすぎです。案の定、後日患者が拗ねる原因となりました。
VIP患者の練習再開
先週かどうかは覚えていないけれど、とにかくスケートリンクで練習を再開していたVIP患者を見ながらの言葉。まず、運動するな死にてえのか、と思うが、百歩譲って「メダリストであるVIP患者の意志を無視できずに病院が譲歩した」としましょう。患者のQOLにスケートがあまりに大きく関わっているのだから仕方ないのかもしれない。問題はこのあとで、VIP患者は倒れて吐血して、たまたま居合わせた大門が対処します。いや、周りに病院の医師が控えていないのかよ。おかしいでしょう。あんなにVIP待遇でマンパワー割きまくった対応をしていて、病院としても絶対に失敗できない患者くらいの扱いだったのになんで「あ、練習行きたいんすか。イイっすよ。気を付けていってらっしゃい」ってなるか?そうはならんやろとしか思えないシーンでした。
医学知識PickUp
慢性血栓塞栓性肺高血圧症
Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension, CTEPH
今回のメインになっていた病気。簡単に言うと「血の塊が肺動脈に詰まって栓になって塞いでしまい、肺動脈の手前にパンパンになる」病気で、厚生労働省の定める指定難病にもなっています。肺動脈から肺静脈に流れるときに血液内に酸素を補充して、蓄えた酸素を全身に運ぶのが血液の主な役割のひとつなのですが、この病気ではそれがうまくできなくなります。その分かりやすい結果が呼吸困難で、ドラマ内の患者はスポーツ選手なのに満足に呼吸できず、競技どころではなかったのです。
じゃあどうするのかというと、ざっくり二種類の方法があります。「詰まっている栓を薬で溶かす」か「詰まっている栓を物理的に剥がす」ことによって血液の通りを改善するという二種類です。大門は外科医なので、後者を行いました。
骨折したら即固定しよう
![](https://assets.st-note.com/img/1733539114-TnlIw2BmCYtVghoKHejSdEbq.png?width=1200)
暴漢に右手首付近を折られた大門。長い添え木を布で固定しています。動かすと骨の位置が悪化したり、まわりの血管や神経を損傷する可能性があるので、負傷部位を可能な限り動かさず、安静を保つことが重要です。骨折の前後で位置関係がズレないように、骨折部位の上下の関節を含めて固定するのが理想です。使う機会が来てほしくはないですが、いざという時には思い出しましょう。
ちなみに、骨折と言えば真っ二つにボキッといくイメージの人も多いと思いますが、ひびが入っただけでも「骨折」と定義されます。
超低体温循環停止(18℃)
心臓を止めて血流を止めると酸素が不足し、組織が壊死します。でも、血管内を弄るには血流を止めたいことも。さて、どうしよう。その答えのひとつがこの超低体温循環停止。実は、組織が死ぬスピードは体温次第で変わるらしく、冷やせば遅くなるのです。だから少しでもダメージを減らしつつ血管内を弄るために冷やすんですね。
劇中で言及されていた水素に関しても、組織の死ぬスピードを遅くすることが出来るらしい。調べてみると、ドラマが放送された2016年あたりにはガッツリ研究が進んでいて、臨床現場ではまだ使えない状況だった様子。うーん、最先端ですね。
おわりに
ドラマの中では非現実的な描写も多いものの、医療の最先端技術や疾患の描写には学びも多少はありました。試験勉強の息抜きに観たドラマが、意外な気づきや知識につながるのは嬉しいですね。それでは、勉強に戻ります!