ぽくとぬり
僕の彼女は「ぬり」という
これはあだ名で、実際は「あんり」っていうのが名前だ。たぶん、住民票にもこの名前が載っている。それに、マッチングアプリで出会ったときもこんな名前だったはずだ
でも、彼女は「ぬり」だ
もちろん、出会った時は私も仰々しく「さん」だの「ちゃん」だのつけていた
ちなみに、「ちゃん」をつけたのは「ちゃんとしなさい」の意味じゃない
昔よく父親が、姉に「ちゃん」をつけて呼ぶ理由が「『ちゃんとしなさい』っていう意味だからだよ」って言っていたから、ついそれを思い出す
だから、「さん」は「私にとっての第三者」という距離感で敬意を払い、「くん」は「君主のように敬う」という意味なのだろう
うん、もちろんデタラメだけど、そういうのも人生には必要だと思うんだ
たとえば、「お好み焼き粉とホットケーキミックスの違いは、強力粉と小麦粉の違いに対応してる」みたいなのって、もっともらしい嘘に思える
いや、あなたは思えないかもしれないが、大学生の時に自信満々に言ったらみんな騙された✨
何をいうかよりも、どういうかだということだ
まあいいや
で、今じゃ僕は彼女のことを「ぬり」と呼んでる
もともと「あんり+さん」だったが、出世魚みたいに、関係が深まるにつれて名前も変わっていった
「あんり+さん」→「あんり+ちゃん」→「あんり」→「やんり」→「あぬり」(これは尻の穴を意味する医療用語に似てるから却下された)→「やぬり」→「ぬり」
といった具合だ
といった具合なのだ
途中「ちゃんりあん」に変化したりしたけど、呼びにくいから却下して人生を過ごした
だからいまは「ぬり」なのだ
でも、清楚な感じの女性を、仮に「山田」さんだとして、「だーやま」とか「やまでんでん」とか「やまやろう」とか「でんやま」みたいなあだ名で呼んだりはしない
おそらく、「山田さん」あたりが関の山だ
関の山田
何が言いたいかというと、僕の彼女は「ぬり」が似合ってしまうくらい、かわいくて、ぽんこつで、おもしろい
ほっぺたがもちもちしていて、顔がまるい
でも骨格が丸いから、思ったほどはほっぺたがもちもちしてるわけじゃない。見た目がもちもちしてるのだ
八重歯がきらりと輝いていて、笑った時にその子だけ顔を覗かしてしまう
目はまんまるで、綺麗な深い二重だから、さらにかわいい
というか、だいたいのところがまるい
体型は丸く無い
僕がちょっかいをかけると、「んもうっ」とか「ほんとにっ」て怒ったように言うけど、それがおもしろい
いつもなんかしらの鼻歌を歌っていて、歌声が大きくなってくると、そろそろカラオケに行きたくなってる
動かずにはいられないみたいで、会う時はだいたい踊ってる
恋愛漫画が大好きで、イケてるビジネスマンがあらゆるニュースをチェックするように、あらゆる恋愛漫画をものすごい量とスピードで見漁る
ぽんこつでミスが多いけど、みんなから面白いって言われて愛されてる
僕は、だから「ぬり」を愛してる
ほっぺたが赤くて愛おしい
そういう、幸せな話