石工と彫刻家と

二十年以上前、美術大学で石彫を学んでいた当時は石屋になるなんてことは、道を踏み外すことのように思っていたし、先輩か教授の誰かから、「石屋になんてなったらダメだ。」と確かに言われた覚えもある。
彫刻家の道を諦め、紆余曲折の挙げ句に石屋に勤めて、職人として二十年やってきた。今、自信をもって言えることは、どんな彫刻家よりも石を触っているということ。また彫刻家でいるよりも数多く、私自身が手を加え、形を造った石材品が国内外の数多の場所に納められているということ。それらにはもちろん私の美意識を込めて成形し、顧客に満足いただいたものばかりである。
とは言うものの悔しさと憤りを覚えることは、日本という国における職人という地位の低さ。それが故に満足な賃金を得られず生活は困窮気味なこと。またあくまで会社員ということで、会社の名声が上がっても、私自身の社会的地位は上がらないこと。
今の私にならどんな石造品も手掛けることができる。世界中の作家やデザイナーを頷かせる造形表現ができる。二十年以上前、私に「石屋になんてなったらダメだ。」と教えた大学の研究室では今、学生達にいったい何を教えているのか?ほんの一握りの彫刻家、美術家になるための、無意義なカリキュラムを続けているのだろうか?今の私になら石材を使って表現することの方法や心得をいくらでも教えることができる。
確かに専門学校ではないから、就職につながる実務、実技や免許、資格をとらせるような教育機関ではないのだろうが、日本の石材文化、石文化を発展させるための人材である学生に、その道を閉ざされる教育が未だに続けられているのではないだろうか?
願わくば、この日本が職人、肉体労働に従事する人材を尊び、高い社会的地位を得られる文化価値観が根付いて欲しい。そしてこの道を志す若者に希望のが未来を見せて欲しい。
日本人の手仕事による技術力は今までも諸外国を驚かせてきたのではなかったか?諸外国を圧倒できるのは日本人の堅実かつ正確な技術と類まれなる集中力の産物であるはずだ!!

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