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お母さんやめまーす!

「おかあさん」
「おかあさん起きてよ!」
「ねえ見ておかあさん」
「あ!妹ちゃんうんちしてる!」
「おかあさんバトミントンしよう!」
「おかあさんおかあさんおかあさんおか…」

時計を確認する。


6:02

身体が鉛のように重たい。
子どもの寝相の悪さによって隅へ追いやられ、壁にへばりついて寝たせいで全身バキバキだ。
目覚めて初めて吸い込んだ空気は、うんち臭い。


ふいに、
私はもう、お母さんを1秒たりともやめられないのだなと気付く。


平日はフルタイムで出勤し、帰ってきたら子どもがいる。土日祝日の休みも、もちろん毎日子どもと一緒だ。
全く一人の時間がないわけではなく、たまには誰かに預けて羽を伸ばすこともある。
でも、その一人の時間さえ、預けた子どものことを思い、「おりこうさんにしているかしら」「ご飯何食べたかな」「はやく帰らないと」と、しっかりお母さんなのだ。

そういえば上の子を出産してしばらく、私はまだ母親ではなかった。戸籍上はもちろんそうなんだけど、私の中で私はまだ、それまでと変わらないシプコのままだった。お母さんになれない自分にふがいなさを感じたものだ。

それがどうだ。
今ではすっかりお母さんである。むしろ、お母さんでしかない。私はもう私ではなく、お母さんという物体になったのではないかと錯覚する。私がお母さんになったのではなく、お母さんに乗り移られたのではないか、というようなよくわからない感覚に陥った。

子どもが鬱陶しいとか、子育てに疲れたとか、全くそういうことはなく、ふと、ほんとうにふと

「おかあさんやめまーす!」

と思った。今日の朝ごはんはホットケーキにしまーす、くらいのノリで。着ぐるみ脱ぎまーす!みたいな軽さで。
少しだけ、ほんの少しだけ、疲れが溜まっているのかもしれない。

ま、もちろんお母さんはやめられないので、下の子のおむつを替え、上の子と卵焼きを作って、朝ごはんを食べさせる。

「おいしいね!おかあさん!」と子どもが言う。
屈託のない、まぶしい笑顔で。


うん。
お母さんはやめられない。やめてたまるか。

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