宇和島が好き#7「草の陰刻」松本清張
こんばんは。これは本読みの性(さが)で、読まずにはいられないのでございます。松本清張氏といえば黒・影・闇とタイトルには入るので(編集氏の傾向でしょうか)兎にも角にも赤と黒とタバコの匂いの昭和、これは読まなくてもタイトルだけでおよそ検討がつきそうなものなのですが、松本清張氏を読む人だけはきっとご存じでしょう。
裏切らない、書き手だと私は思います。
本読みは読まずにはいられないのですが、読み疲れたりですとか読後のがっかり感に打ちひしがれた(ぺしゃり)ときには松本清張氏を思い出します。むしろ松本清張氏を手に取れる時代に生きることに感謝を感じます。
ちなみに、松本清張氏は九州のお生まれなので四国が近いこともあり、松山検察庁を舞台にした「草の陰刻」を上梓されておられます。宇和島も地名だけですが登場します。
せっかくですから、みなさまが読みたくなるように紹介しましょう。くりかえしますが舞台は松山検察庁です。夜勤の当直が事務官と事務員2名いたのですが、事務官が事務員を飲みに誘い出して無人になりました。その後、庁が火事になり一部焼けた跡に事務官が焼死体で見つかりました。事件か、事故か。。責任者である青年検事は当初、事件性は無い失火と判断したのですが、火事の前後に紛失したと見られる文書を巡り、新たな疑惑が生まれます。青年検事は松山から異動になるのですが、事件性を疑い私的に調査を続けた結果は果たして、、、
事件か、事故か。
松本清張氏の小説は結末を明かしてくださるのですが、リアルタイムで事件を目の当たりにしていると、小説のようには結論は出ません。
出ないですよね。
例えば、大阪地検 元検事正が、性的暴行の裁判で一度認めた罪状を一転して否認に転じて無罪を争うということになりましたね。12月11日午後から一斉に各局が報じはじめたので、目にされた方も多いでしょう。女性として私は平静に見ることができませんでした。被害にあわれた方の心情を慮ると涙がとまらないのですが、この気持ちは私だけのものではないでしょう。
松本清張氏が存命ならば、こういった事件をどのように描かれただろうと思うことがあります。氏は実に多彩な作品群を築かれたわけですが、なかでも「黒革の手帖」と「草の陰刻」を考えると、そうですね、しかるべき結末を見せていただけるような気がしてなりません。
そういうときにこそAIを活用すべきなのでしょうか。
しかし私にはAIが、松本清張氏を現代によみがえらせる存在になり得るとはどうしても思えません。時間は戻せないからです。
清張氏の生きた時代から時間は経ってしまったので、文章の癖や頻出語といった些末な部分から清張パターンの作成は可能かもしれませんが、時間を飛び越えた清張氏の知性をAIに学習させることは不可能とはいえないまでも、困難なことは確かではないでしょうか。
お読みいただきありがとうございました。