見出し画像

【STORY】入れ替わり

【入れ替わり】

ある朝、目を覚ました僕はいつもの朝と違う…そんな気がした。
「へっ?な、なんだ?」
僕が僕でない。

恐る恐る鏡を見た。
僕は自分が犬になっていることに気が付いた。
「落ち着け!夢だろ?」

かなり頭ん中がグチャグチャで動揺していたが
僕は目を閉じて
記憶を辿ってみた。

えーっと…
僕は修造って名前で
ごく普通の人間の家庭で産まれ
ごく普通に育てられて
ごく普通に小学校に通っていた…
はずだった。
特にかっこよくもなく
スポーツも飛び抜けてできたわけでもなく、
勉強のほうも…
いわゆる、普通だった。

テニス大好きな親から生まれたってバレバレの名前が、
僕は恥ずかしくてたまらなかったし、
テニスを習っていたわけでもなく
そろばん教室に週に一度通っていて、
周りからは「陰キャ」と
言われていた。

で?
なんで僕は犬なんだろう。
口を開けてみた。
鋭い牙が見えた。
あ、ハスキー犬とやらだったかな。

僕…なかなかカッコいいのか?
ブルーの瞳だ!

それにしても
人間の僕は、死んじゃったのか?
テレビとかで見たことある、生まれ変わりをしたんだろうか?

だとしたら、僕は、いつ死んじゃったんだろう?
交通事故とか、重い病気とか?
でも、痛い思いは何もしていない気がする。

あ、誰かがきた…

「シュウゾウ!お腹空いたろ」

そう言って
僕にご飯を差し出した。

どうやらこの人が僕の飼い主らしい。

ドックフードだろうか…

僕は、急に涙が溢れてきた。
犬が涙を流して泣くのかどうかは知ったこっちゃない!
僕は、僕の家族に会いたくなった。

「シュウゾウ…食欲ないの?どうしたの?」

ん?なんでこの人は僕の名前を知ってるんだろう…

「え?シュウゾウ?泣いてるのかい?お腹痛いの?お医者さんに行ったほうがいいのかなぁ」

飼い主さんは僕を心配しておどおどしてきたので
僕は、
目の前のドックフードを平らげた。

ん?なかなか美味いぞ!

僕は、犬らしく吠えてみた。
「ワンワン!」
なかなかうまくいったぞ。犬みたいだ!

飼い主さんは
「よかったあ」と僕に抱きついてきた。

僕は、次第に新しい家族とうまくやるコツを覚えた。
犬の性質とやらは凄いもんだ。

ただ、いつまでも慣れないのは
夜の犬小屋だ。
犬のくせに僕は暖かい布団が恋しかった。

ある日の夕方。
きれいな夕日が見える土手。
いつも僕はこの土手を飼い主さんと
散歩するんだ。

ん?
え?

父さん?
その横にいるのは…
人間の俺?
「ワンワン」
父さん!父さん!僕は叫んだ!

夕日の光でうまく見えないが
たしかにあれは
父さんと人間の修造だ。

俺…死んでなかったんだ。
修造は生きてた!よかったな…修造。
僕は、犬のくせにまた涙が溢れた。

…………………………………………………………………


「修造!おっきな犬だなあ!ずっとおまえのこと見てるぞ」
父さんは散歩している大きなハスキー犬を指さした。

僕は目を疑った。
俺だ…
あの犬は…僕だ…
僕も…その犬を見つめた。
「父さん…あの犬は…僕なんだ」
「修造!な~に言ってんだ?」と言って笑った。


「おまえはシュウゾウなのか?」

何故僕は…人間になったんだろう…
人間になった僕は
目に熱いものが流れたのを感じた。



※こんなことがもしあったら…
と、書いてみました。
このお話は3年前くらいに音声配信アプリで配信したものを
少し編集した作品です。


いいなと思ったら応援しよう!