【STORY】僕の生き方
【僕の生き方】作 夏子
僕は猫のライ。
小さい頃から
ライオンみたいな毛並みをしていたから、「ライ」とパパに名付けられた。
僕はパパの会社に捨てられた野良猫だったんだ。
パパに気に入られ、僕を家に迎えるにあたり、
猫が苦手だったママのOKをもらうのってすごく苦労したって聴いてるよ。
元々動物好きだから
僕を見たママの表情
が変わったのを僕は見逃さなかった。
これでもかってくらい、スリスリして可愛らしく鳴いて甘えてやったさ。
ママは僕を抱き上げ
そしてギューッと抱きしめた。
僕はひとりぼっちだったけど
家族ができた。
パパとママと、お兄ちゃんとお姉ちゃん。
そりゃぁもう、これでもかってくらい可愛がってもらったよ。
僕んちにはお客さんがよくやってきた。
僕んちはいつも賑やかで笑い声が絶えなかった。
僕は、玄関が見える出窓で誰かがやってくるのをいつも待ってたんだ。
僕に気付いたお客さまは、満面の笑みで
手を振ってくる。
でも僕は意外にシャイなもんだから
お客さまがきたら
大抵、冷蔵庫の上に避難していたんだ。
ベタベタと触られるのは、どうも苦手なんだ。
そこから眺める人間様の世界は好きだった。
パパもママも
お兄ちゃんもお姉ちゃんも
みんなが笑ってた。
その笑い声を子守唄に僕はよく一眠りしたもんだ。
年に何回か最高に賑やかな日がやってくる。
ママとよく似た笑い声をする女。
ママに声だけでなく
よく見ると顔も似てるから不思議なもんだ。
この女がママとどういう関係なのか詳しいことは知らないが、ママと親しいんだろうと僕は思っていた。
その女は自分が騒がしいだけではない。
騒がしい仲間を連れてくるんだ。
僕をチラッと見てニヤリとするマッチョな兄ちゃん。
この兄ちゃんは普段はおとなしいのに、誰に似たんだか、酒には強い。
あの最高潮に騒がしい正月の夜も
僕は冷蔵庫の上から彼らを冷静に眺めていた。
そして
僕を触りたくて、追いかけまわしては撫で回してくるくせに
痒い痒いとお騒ぎして目が腫れてしまう猫アレルギーの兄ちゃん。
アレルギーなら僕を放っといていただきたい、と僕は思うんだ。
若いお姉ちゃんもいる。
可愛い顔してるくせに意外に強気な姉ちゃんで、いっつもはしゃいでいた。
僕んちの姉ちゃんと仲良くていつもくっついて遊んでた。
そして1番やっかいなのはチビ太。
僕と初めてあったときはまだ歩くこともできなかった新米ぺーぺーのくせに
歩けるようになるとやけに僕をつかまえようとするんだ。
だから、たまにシャーッ!!と牙をだして僕の威厳を見せつけてやった。
チビ太は僕んちにやってくる度に
デカくなっていったが、
相変わらず僕を捕まえようとするから
たまには遊んでやった。案外おもしろかったな。
僕は
まだまだこの家族とこの家族の仲間たちと一緒にいたいと思っていたんだ。
でもある日僕は、
裏山から呼ばれた気がしたんだ。
「お外に出ちゃだめよ」
僕はママの言いつけをずっと守ってきた。
でもあの日僕は
僕の祖先の何かに呼ばれた気がしたんだ。
僕はこの家を出る決意をした。
何か悪いことが僕の身に起きる予感はした。
猫の本能なのかもしれない。
大好きな僕の家族に哀しい姿を見せたくない一心で、僕は一大決心をした。
ママが1階で鼻歌を歌いながら洗濯物を干していた。
「ママ…約束を破ってごめんね」
僕は2階のベランダからそっと家を出た。
2月の冷たい風が、僕に体当たりしてきた。
僕には猫の本能がある。
だって僕は野良で一人さまよっていたんだ。
久しぶりの外の世界。
僕には僕の寿命がわかっていた。
どのくらい歩いただろう。
痛いくらいの冷たい風で
僕は、立っていられなくなってしまい、その場でうずくまってしまった。
あの暖かく騒がしいリビングが懐かしく感じた。
目を閉じると
パパやママやお兄ちゃんやお姉ちゃん…
そしてあの騒がしい集団の笑い声が聴こえてくる気がした。
「ありがとう。僕は幸せだったよ」
(口笛の音)
どこからか、ママの口笛が聴こえてくる。
家の中で僕はよくかくれんぼをしていたのだが、
僕を探すときママはいつも口笛を吹いていたんだ。
「ママ…」
きっとママは僕を探してるんだ。
再び、口笛が聴こえてきた。
「ママ…僕は…ここだよ!約束破ってごめんね」
僕は、ありったけの力を振りしぼって
口笛が聴こえてくる方へと出ていった。
「ライ!ライ!」
「ママ…ごめんね」
疲れきったママの顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
僕をずっと探してくれてたんだね。
「ライ!寒かったね!こんなに冷たくなって!おうちに帰ろうね」
ママは冷たくなり、すっかり汚れてしまっていた僕を抱きしめた。
そして毛布に包まれて僕は病院に連れていかれた。
「ママ…僕は幸せだったよ」
家に戻るとみんなが僕の顔を心配そうに覗いた。
僕はもう甘え声をだす事もできなかった。
僕は、猫だ。
でもみんなの家族になれて幸せだったよ。
人間様に囲まれて虹の橋を渡るのは
もしかしたらご先祖さまに怒られるのかもしれないな。
でもそれが僕の生き方だ。
僕はゆっくりと目を閉じた。
ニャー(小さな声で)
最期の力を振りしぼった声が
僕の家族に届いたかどうかはわからない。
【あとがき】
これは実話を元にしたフィクションです。
ライと名付けられた猫は私の姉の家にいた猫です。
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