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「軽井沢のセンセ」からの暗号(7)〜はじまりは本郷追分「交差点」

内田康夫先生シリーズとの邂逅

 そもそも、あの日、初めて記念館に向かったのは、テレビはあまり見ないのに、ある日、新シリーズ『信濃のコロンボ』の『追分殺人事件』のドラマを見てしまったことからだ。

 物語は確か、よく行く信濃追分や軽井沢あたりからはじまった。それによりひろこは、長野の山々や、夜の軽井沢の涼しい風や冬の透明な空気を、まるで肌で感じるように思い出したのだ。

 さらに驚いたことに、場面が事件の捜査に変わると、今度は東京都文京区にある、本郷追分の見慣れた風景や、かつて仕事でビールを注文していた酒屋さんがうつし出されていた。そこですごしていた時期は、あまり活躍できず、どちらかというと苦しい時代で、その後あの場所に行くことはあまりなかった。

 あれからかなりの時が経ち、偶然の「再会」により、それらが心の中の宝物だと思えてきたのだった。

 その後、内田先生作品には『浅見光彦シリーズ』があることも知った。就職が決まらないでいる時、留学前など、昼間に家にいたりした、悪く言えば先が見えない時期、よく言えば充電期間に、再放送で、いくつかの事件を見た記憶がある。確か、素敵な日本全国の旅先の風景や、ヒロインとイイ感じになりながら、女性の気持ちに気が付かない主人公・・・みたいな映像を覚えている。

 例の『扉』に応募した文章は、しばらく経ってから、「取材」のお礼がてら、心ばかりの手土産をもって、勝手に、読んでくださりそうな何名かの方へ、押し付けた。かつてどこかで、内田先生が、自費出版された本を名刺代わりにお配りになり、そのご縁でデビューされた、というお話を聞いていたからかもしれない。

 その時のタイミングといい、センセの本とテーマ、特に軽井沢と信濃・本郷追分にいたっては、かなりの深いご縁を感じ、出会いはまさに必然であった。そのため、書き直して、他の文学賞に応募したり、出版社さんへ持ち込むといったことは、思いつきもしなかった。

 ところが、である。本人さえ予期できない奇跡が起こったのだ。


物語の舞台の北区とも東京メトロ南北線でつながる千代田区の市ヶ谷で、瀬織津姫Caféさんを経営される素敵なオーナー様が、なんと、3名の作者の方々とご一緒に、『小説の本』というすてきな本にして下さったのだ。

『小説の本』

 うまくいかなすぎた人生と、それでも何かお役に立ちたいという、ほとばしるような想いが報われた、いや、救われた瞬間だった。

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たきのさくら
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