息子と散髪屋さんの話
私の息子は、いわゆる「障がい者」です。
知的に遅れがあり、多動の傾向があり・・・落ち着かずに動き回ってしまいます。
まだ2歳くらいの頃に、子供向けの散髪屋さんに連れて行ったのですが
「こんなに動き回って、座れないのであれば散髪できません」
と迷惑そうに言われ、妻と二人で泣きそうになりながら、悔しい思いをしながらお店を後にしたことを覚えています。
後日、どうにも散髪しないと髪が伸びすぎてしまったものの、自分が散髪してあげる自信も無かったので、また断られたらどうしよう・・・と、ドキドキしながら散髪屋さんに連れて行きました。
今考えてもあまり良いことでは無かったと思うのですが、店員の方に何も言われないのを良いことに、息子の横に立って声を掛けながら、頭を押さえて前を向かせたりしながら、散髪している間ずっと息子の横に立っていました。
「席でお待ちいただけますか?」
と言われたら、息子の事情も話して、可能であればそのまま横にいさせてもらおうと思っていたのですが、その日は何も言われないまま散髪が終わりました。
心からの「(散髪してくれて)ありがとうございました」を言いながら、その日は帰宅しました。
ひと月後、同じお店に行って、息子の散髪をしてもらったのですが・・・その時も何も注意されないのを良いことに、息子の横に立って声掛けをしながら過ごしました。
髪を切って頂いている間も、息子に「前向かないと終わらないよ」とか、「ちょっと大きな音するよ~」と、声を掛けて頂き、嫌な顔ひとつせずに「普通に」対応頂いたことがすごく嬉しかったです。
段々息子も散髪されることに慣れてきたのか、気持ちが不安定になることもなくなってきて、落ち着いて散髪ができるようになってきたことで、こちらも安心していたある日、散髪後の息子の髪を払ってくれていた店員さんが
「お父さんも、手、出してください。綺麗にしましょう」
と言われて、不覚にも泣き出しそうになりました。勿論、嬉しくて。
その日、泣きそうな顔を見られたくなくて、急いで御礼を言って店を出て、どうしてもそこの散髪屋さんに御礼が言いたくて、ネットで問い合わせました。
快く連絡先を教えて頂き、御礼と併せてお詫びの言葉も書きました。注意されないのを良いことに、息子の横に立って声を掛け、頭を前に向けたりしていたこと。
本来であれば他の方の邪魔になるかもしれないし、ルールを逸脱していると思うが、息子の(多動や知的障害があり、私からの声掛けでないと聞けない、という)特性を考えると、どうしても横で声掛けをした方がスムーズに散髪が済むであろうこと。何も言わずに、息子の横に立つことを許して頂き、ましてやこちらにまで気を遣って頂いて本当に嬉しかったし、涙が出そうになったことを書いてメールしました。
お店の方から返信を頂き、「またいつでもいらして下さい」という言葉を頂いたこと、鮮明に覚えています。
そのメールからひと月後に息子の散髪にその店舗にお邪魔した際、帰り際に
「いつでもいらして下さい。みんな待ってますから」
と声を掛けて頂き、嬉しすぎて妻に話しながら泣きました。それから、息子の散髪はそこのお店にしか行かないようにしています(笑)。
他のお店では動き回りすぎて断られた息子を、きちんとひとりの人間として扱ってくれたお店の方々には、本当に感謝しかないです。
いわゆる「障がい者」というだけでいつも色眼鏡で見られがちだった息子なですが、やはり普通に対応してもらうことが本人も分かっていて嬉しいらしく、「チョキチョキ~」と言いながら、ノリノリで散髪に行ってくれます。
今はもう、息子の横に立つこともなくなりましたが・・・お店に行くたびに素敵な笑顔で迎えて頂き、いつもと同じように、他の方と同じように接して頂けるお店が、私も息子も本当に大好きです。
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