JapanTaxi 社長 川鍋一朗が語る ドラッガーから学んだ経営と革新的な挑戦の秘話
(この記事は2019年に作成したものを再掲載しております。)
業界のトップを走る「プロフェッショナル」が薦める本とは?読書をもっと面白くする実名ソーシャルリーディングアプリReadHubが、独自インタビューをお届けするReadHubTIMES。
「移動で人を幸せに。」とビジョンを掲げ、タクシー業界を最先端で引っ張り続ける川鍋一朗氏。川鍋氏が大きく影響を受けたというドラッガーの言葉と共に、日本交通社・JapanTaxi社での果敢な挑戦の秘話を語る。
本に背中を押してもらえる
ーー多忙な生活のなかで、どのくらい本を読みますか?
川鍋:マンガをのぞけば、だいたい月に2冊くらいです。マンガだと、時間ができた時にまとめ買いをして一気に1週間くらいで読み切ることもあります。
ただ、これまでの人生の中では、たくさんの本に出会い支えられてきました。私は多読派ではないので、自分が求めている情報を探して読むような感じです。
私の祖父は30歳の時に、日本交通を立ち上げました。そのこともあって、「日本交通の社長になること」が夢だった私は、20代をその準備期間と位置付けていました。そのため海外の経営大学院を出た後、マッキンゼーに入って、やっと2000年に日本交通社に入りました。
経営について考える中で、本を重宝しましたね。お風呂の中に本を持ち込んで、響いた部分には日付と一緒に線を引いておくんです。すると、また時間が経って読んでみると、前に読んだところと違う部分に線が引けて、新しい発見ができます。
本にすべての絶対的な答えがあるわけではないですが、自分が考えていることと近いことが本に書かれていると、勇気づけられます。なので、本はわたしの背中を押してくれる存在です。
ーーその時に印象的だった本はありますか?
川鍋:2000年から2005年にかけて、手にとったのがドラッガーの本でした。たくさんのドラッガーの本を読んだのですが、その中でも『ネクスト・ソサエティ』『明日を支配するもの』『チェンジ・リーダーの条件』の3つは参考になる部分が多かったです。
それぞれの状況に応じて、必要な本は変わると思うので、どれを読んでみたら良いということはないですが、どれも良い本です。
「会社の目的は顧客の創造だ」この会社の本質をついた言葉は深く残っていて、その他の金言の数々に「ドラッガーが全部網羅している、、、」と衝撃を受けたのをよく覚えています。2006年にV字回復をした後には、ドラッガーの言葉も社是・社訓に取り入れたくらい、大きな影響を与えられました。
答えは会社の中にある
ーーJapanTaxiのアプリの中で降りる時に払わなくてもいいウォレット機能など革新的なアイデアが多いですが、そのアイデアの元になっているものはありますか?
川鍋:本も含めて、何かのコンテンツからビジネスアイデアをもらい受けたことはありません。流行り廃りのある、ものを参考にして会社としての方針を決めることはできないのです。
毎日こうして現場に出ていると、答えはいつも会社の中にあります。会社はすべてが顧客体験の積み重ねなんです。1分1秒が参考になる。だから、現場での営業や顧客の行動、乗務員からの声がとても大事です。自著の『タクシー王子、東京を往く』でまとめた、実際にドライバーを経験した時に実感しましたね。
例えば、「陣痛タクシー」は現場から生まれたサービスの一つです。ある日、電話対応の現場を見ているときに、ベテランの電話対応の方が少し緊張した面持ちで対応していたので、「どうしたの?」と聞くと、「陣痛がきたお客様の対応でした」と。
「そんなことあるんだ!」とその時は思ったのですが、よくよく聞くと「毎日ありますよ」と。ズッコケましたね。ドライバーにも聞いてみたところ、そういう時はいつもドキドキするらしい。このことをきっかけに、すでにあったVIPに優先的に配車する仕組みを活かして、妊婦さんを最優先に対応する「陣痛タクシー」を作ったんです。
その他にもビジネスアイデアが不足したことはありません。100個アイデアがあるうちの2,3個しか実現できていないくらいです。これも現場から答えを探しているからこそなのかもしれないですね。
ーービジネスアイデアを具現化するときに意識されていることはありますか?
川鍋:よくあるのは、「これあったら絶対便利じゃん」ってものから作り出していくことですね。例えば現在JapanTaxiアプリにある、降りるときに決済する手間を省けるウォレットも昔から「あったらいいな」と思っていたものです。
それが技術の進歩によって、どんどん実現できるようになってくる。テクノロジーによって段々とニーズが掘り出されてくるような感覚です。ニーズを掘り出すためのコストがテクノロジーの進化によって、掘り出したあとのバリューが上回るのです。
テクノロジーは短距離走。つまり短期間でのスピード勝負です。置いていかれると追いつけなくなってしまうし、しんどい。だから、ドットコムバブルの時には、ドメインをとってブラウザ上で配車サービスを作ることを目指し、アプリという概念が出来てからはすぐに開発に取り組んできました。
「変化はコントロールできない。できるのはただ先頭に立つことのみ。」とドラッガーは語っていますが、そんなに簡単に挑戦できるものでもない。でもこういう葛藤を経て、挑戦し続けなければならないと、自分をいつも奮い立たせています。
コンテンツホルダーであり、プラットフォーマーになる
ーー今後のJapanTaxi、川鍋さん自身の挑戦を聞かせてください。
川鍋:ひとことで言えば、垂直統合と水平統合を両輪で進めていこうと考えています。図を描いて説明しますね。(下記、スライドは川鍋さんが描いた図を再現したものです)
ーー最後に、ビジネスで挑戦する人にオススメの本があれば教えてください。
川鍋:1冊挙げて、と言われたら『ゼロ・トゥ・ワン』ですね。とにかく逆張りがすごい。
逆張りを実践すると、めちゃめちゃ勝つか、一瞬で消えるか。この果敢な挑戦が大事なんだと思います。
ただ、挑戦を続けていると、ツラい時は何度もやってきます。経営者としてキツイ時には、『ハード・シングス』を手に取ります。この本を読むと精神的に救われるので、私にとってはお守りのようなものですね。