読書記録R6-40『田辺聖子の万葉散歩』
田辺聖子著
中央公論新社2020年6月初版
初出
第一章「萬葉百首散歩」『DaMe』(1984年7月号〜85年4月号、主婦の友社)
第ニ章「新・萬葉散歩」『DaMe』(1985年5月号〜9月号、主婦の友社)
田辺聖子
1928年、大阪生まれ。樟蔭女子専門学校国文科卒。63年、『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニイ)』で芥川賞を受賞。大阪弁で軽妙に綴る現代小説の他に、古典文学の紹介、評伝小説など、著書、受賞は多数。2008年、文化勲章受章。19年6月死去。
解説によると
「令和」という新元号になってその典拠となった万葉集が脚光を浴びており、この風潮は昭和初期にもみられた熱狂的な万葉集信奉を思い起こさせる。
昭和を生きた田辺聖子も万葉集熱を鮮明に記憶しているという。
ー実際、私たち学生が教わるのは、勇ましい戦意高揚歌や、天皇への忠誠の歌ばかりであったー。
(略)そして過酷な戦時下を生き延びるには「詩や小説や絵や、美しいコトバなどが手もとになければ干からびてゆく気がしました。」
(田辺聖子氏の一周忌令和ニ年六月六日に中周子筆より一部引用)
第一章は「萬葉百首繪かるた」によせて書かれている。
だから、田辺聖子氏が選出した百首ではなく昭和初期に主婦之友社が刊行した百首に寄せたものだ。
当時の世相を反映した選出がされていて、田辺氏の視線はそちらにも向けられて興味深い。
以下10の段に分かれて解釈がなされている。
のびやかな本音の歌
夏だより、夏の恋
召されゆく人、旅立てる人
万葉びとの憂愁
万葉の秋、恋の季節
夫婦の愛
青年たちの歌
冬から春へ
伝承のうた
東歌と水路ー旅によせて
続いて第二章 私の好きな万葉秀歌
こちらは田辺聖子氏が選出した歌、5段でできている。思いが溢れた解説が読んでいて楽しい。
言葉のくすしき力
読み人知らずの歌
恋の熱情
東歌
家持の歌を中心に
解説 「田辺聖子の万葉エッセイ」
中周子
田辺聖子氏の言葉はわかり易く、人情味に溢れ、その歌の意味する所がよく伝わってきて読んでいて楽しい。
どの章段も解説の中氏が言うようにひと味違う。時には小説家の目が光り物語が展開する。
東歌は家を出る男達の心境を考えるとたまらない。
また藤原氏の台頭による歴史に行き合わせた大友氏の長、家持。晩年の家持の運命と心境を考えると、今読むだけでも心は複雑になる。
新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事
この歌で万葉集は閉じられるという。
古くから読み継がれてきた『万葉集』。
その魅力をユーモラスなエッセイに包んだ田辺聖子氏。
最後まで読み終えてもまた繰り返し読みたい。
そして思う。
この1冊も是非蔵書に加えたいと。