境界の淵で仕掛ける
日本財団が主催するオンライントークイベント「STARTLINE」で安宅和人氏の話を視聴してみた。安宅氏の著書「イシューからはじめよ」や「シンニホン」は話題になったが、一度生の声を聞きたいと思っていた。
安宅氏が「STARTLINE」のインタビューの中で話をされていたのは、「シンニホン」に書かれていた内容とも重複するが、概ね以下の内容に纏められると思う。
世界的に重要なテーマは感染症と温暖化対策の2つ
日本が取り組むべき重要テーマは次世代への投資
既存の枠組みを破るのに、コロナ禍の今は絶好のチャンス
いずれのテーマにも共通するメッセージとして私が思ったのは、「境界」という言葉だった。
一つ目の感染症と温暖化対策については、アメリカのバイデン次期大統領が掲げている施策とも一致する。そしていずれもトランプ現大統領が否定してきた施策であり、アメリカでは今後この二つの施策がせめぎ合うと考えられる。こうした政策的な意味での境界ということもあるし、感染症も温暖化も人類が活動領域を拡げ、自然界との境界を破ってしまったことから起こっている問題だともいえる。
二つ目の若者への投資。現在の日本の施策は多くが高齢者寄りの施策となっており、社会保障費のうち、年金や医療、介護に関わる費用はおよそ8割を占めている。一方で日本の公的支出に占める公的教育費は先進国の内最低レベル(9.1% )となっている。OECDの平均は12.9%(*OECD. Education at a Glance.2014.)今後日本が国際社会の中で一定の競争力を維持しながら生き残っていくためには、高齢者と若年層という世代間における境界について、現在よりシビアな選択を迫られることになるはずだ。
そして最後のテーマ、既存の枠組みを破るということについて。これは「過去」と「今」、そして「アナログ」と「デジタル」という境界を跨ぐということだ。安宅氏によればコロナ禍の今は、既存の枠組みをほどいていくのに絶好のタイミングであり、日本人は歴史的に見てもこうしたタイミングで力を発揮するのだという。明治維新や戦後のタイミングで数々のイノベーションが生まれたことを振り返ってみても確かにそうした事例はあった。
現在はそうした境界の淵で様々なものが壊れ、そして生まれていくタイミングなのかもしれない。
「今こそ仕掛けるべし」と安宅氏は言う。
個人として考えるにはテーマとしていずれも大きすぎる内容であるように思えるが、仕事をしていく上でも、上に書いた3つの視点は参考になるように思われる。分かりやすいのは例えば投資という行為を考えた時に、感染症や温暖化、そして次世代やデジタルといったテーマに取り組む企業は今後急速に成長していくのだろう。ESGマーケットが拡大しているのはその証左だと思うが、こうした形でお金の流れが変化し、チャレンジしようという若者が増えていけば、日本の未来も暗くない。