文化を土台にした龍野のマチづくり
兵庫県たつの市。「うすくち醤油」発祥の地として栄えた城下町には、今も昔ながらの建物が数多く残り、老舗の醤油屋さんが今でも現役で頑張られている。
こうした建物を丁寧に残し、今の時代に合った形に再生し、活かしている人達がいる。
緑葉社を運営する畑本さんはその代表者で、先日お話を伺ってきた。
人口7万人くらいの市だが、龍野の城下町は10年くらい前から空き家が目立つようになり、古くから残る建物も取り壊される物件が増えてきたそうだ。
そうした中、当時サラリーマンだった畑本さんの元にも、地元の方から相談が寄せられるようになり、片手間でやっていた地域イベントの仕事などもきっかけに、本格的にマチづくりに関わっていくことになる。
10年来にわたる古民家の改修やエリアマネジメントの仕事を通して得られた知見は膨大だと思うが、今回お話を伺った中で、私なりに特に印象に残った点について整理してみた。
1.マチの文脈(文化・歴史)をよく理解する
いってみればマチづくりの王道といえば王道だと思うが、畑本さん達は、ここをとても大事にされている。元々は「ひとまちあーと」という団体を非営利法人で立ち上げられており、文化的な視点を大切にしていこうというコンセプトからスタートされているそうだ。
町民とコミュニケーションする上で、この文脈理解はとても重要で、「かつてこの町にはこういう人がいて、こういうことをやってましたよねー。”なので” 今これ必要じゃないですか?」といった形で、まず住民さんに共感してもらえるような文脈から入り、一方で自分達がやりたい、やろうと思っていることをそこに乗せていくというコミュニケーションの取り方をされているようだ。
往々にして、新しいことをやろうとすると、まずこちらのやりたいことを伝えることから入ってしまいがちだが、住民さんの立場に立って企画する、そのために地域文脈をよく理解する、ということは忘れてはならない視点だと思う。
2.文脈に沿ったブランドの統一を行う
町を歩いていると、そこかしこにセンスのいいサインを見つけることができる。龍野のご出身で、以前はオーストラリアでデザイナーをされていたアーデンさんという方が町を案内して下さったのだが、これらのサインは全てこの方によるもの。
町に溶け込んでいながら、とても洗練されたデザインで、こうした小さなアイテムがあることで、町全体に統一感が出ている。
アーデンさんによると、古民家を改修する一方、そこに入られるテナントさんの選定にはとても気を使っているそうで、時にはやんわりとお断りすることもあるそうだ。
地域文脈に沿った形で事業を行ってもらわないと、町全体の景観や雰囲気を損なうことにもなりかねない。こうした小さな配慮の積み重ねの上で、町全体のブランドを作っていっているのだろう。
3.早い段階で起点となる場所を複数作る
古い建物を改修し、実際にそれで稼げるようになるまでにはかなり時間がかかる。畑本さん達も事業を開始して、最初の5~6年の内は結構厳しくて、ここ2~3年でようやく事業が上向いてきた、とお話されていた。
こうした息の長い取り組みをする上でも、やはり最初が肝心だ。
ビジネスの世界でも、新しいエリアを開拓する際に、よくフラッグシップ店をオープンするという形を取っているが、それと同じようなことをマチづくりの中でも行う必要があるということなのだろう。
まず2、3店舗、ある程度集客力もあって、注目されるようなお店を作ってしまう。人が集まることで、町の人達も「あそこ何やってるんだろう?結構人入っているみたいだね。よし行ってみよう」という形になり、町の人のファンを作ることにも繋がっていく。
実際に龍野では、県外からの観光客は勿論重要なお客様ではあるのだが、コロナ禍においても、地域住民や近隣の方の固定客が安定的にあり、さほど大きな影響を受けずに済んでいるそうだ。
4.キャッシュポイントを複数作り、町中に埋め込む
町を歩ていると、醤油屋さんだけでなく、パン屋さんや食事処、お土産物屋さんなど、多様なお店が複数、町のそこかしこに並んでいる。
お店の多様性と数が一定程度あることで、地図を見ながら、今度はここに行ってみようかな、と探索してみたくなるワクワク感がある。
そして、宿、食、土産、といった複数のキャッシュポイントがあることで、地域全体として生み出される経済的な波及効果はかなりあると考えられる。
地域にお金が落ちるという仕掛けをちゃんと作ることで、観光客だけでなく町の人にとってのメリット感も出していくことがやはり大事だ。
5.住民参加を促すための仕掛けをつくる
いかに綺麗に建物を直し、そこで観光客などを呼び込むことが出来たとしても、そこに住まわれる住民さんが置いてけぼりでは、事業としては片手落ちになってしまう。
地域文脈を大事にするというコンセプトはここでも一貫していて、畑本さん達は、住民さん達を事業に巻き込むための仕掛けにも力を入れている。
現在は、大きな醤油屋さんの跡地を使って、国際映画の上映イベントやコンテンポラリーアートのイベントなどを企画中だという。
こうした文化芸術イベントの中にも、地域にゆかりのあるアーティストを入れていくなど、新しい視点と、町に古くからある視点の融合に気を使われているそうだ。
古い物を活かし、新しい風を吹き込み、持続的に町を活かしていく。
畑本さん達の取り組みはまだまだ広がっていきそうだ。
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