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1万6千歩と、延びた退院

 毎日1万歩を目指して歩き初めてから、何日経っただろう。
始めは5千歩歩くのがやっとだったのに、少しずつその歩数は伸びていき、今では1万歩はゆうに超えている。
てくてく、てくてく、と決してスピードは早くはないけれども、1歩1歩を噛み締めるように歩いていく。
20分も歩けば、この頃の、特に例年よりずっと暖かいこの11月の陽気では、暑くて汗が吹き出してくる。

その日その時の気分で、少し洒落たカフェやら、美味しそうなレストランを目的地として(前日にGoogleマップとにらめっこをして下調べをしておく)、たどり着けばそこで少し休憩をしてから、また今度は家までを帰って来るというのが私の歩き方だ。
決まった道、まして同じコースを歩くなんてことは絶対にしない。出来るだけ、通ったことの無い道を選んで歩いている。

そうしていると、この街、この区に住んでから、もう何十年となるはずなのに、今まで1度も歩いたことの無い新しい道に毎日出会う。
家からそう遠くない場所のはずなのに、まるでどこか知らない土地へ旅行にでも来ているような気分になる。
おかしなもので、知らない道を歩いていると、東西南北さえ分からなくなってくるから、日頃いかに、同じ道ばかりを使っているのかということが、肌をもって実感する。
同じ道ばかりを繰り返し、繰り返し、当たり前のように使うような生き方には少しばかり飽きてしまっているように思う。私は常に新しいことをしていないと息苦しくなる性格のようだ。

 今私は、週の半分、平日はこの区にある私の家で日々を過ごし、金曜日の昼からの週末は、車で下道を1時間以上かけて、パートナーの家に行くという生活を送っている。
といっても、パートナーの家には肝心のパートナーは居ない。
昨年再発した病気治療のため、彼は今東京で入院をしているからだ。
彼はそれまで実家で、高齢の母親と2人で暮らしていた。
彼が東京に治療に行くにあたって、彼の母親が1人になってしまうから、という理由で、週末だけ、私がお邪魔して、お義母さんと2人で過ごしているのだ。
本来であれば、結婚を先にしてから、お義母さんと同居という形になるはずであった。
しかし、予想もしない病気の再発から、こんな展開になってしまった。

お義母さんと私は、幸いなことに、同じ干支、同じ血液型のせいなのか(そんなことが本当に性格を決めるのかは疑わしい)、とても気が合い(そう思ってるのは私だけか?)私達は、楽しい週末を主不在の彼の家で心穏やかに過ごさせてもらっている。
お義父さんは昨年、13回忌を迎えたばかりで、
彼の弟、妹はそれぞれ近所に住んではいるが、それぞれに家庭があり、さすがに齢80を超えた高齢のお義母さんを、特に夜に1人にしてしまうのには、まだ他人の私でも抵抗があった。

まだまだ頭もしっかりとしたお義母さんで、平日は毎日こなしているルーティンがある。陶芸教室や、リハビリや。その都度、朝、弟のお嫁さんやら、彼の妹やらがお迎えに来て、夕方までは、1人にはならない。
週末だけは、出かける用事もないので、それなら私がお邪魔して、ということに落ち着いた。

私のパートナー、彼も、辛い治療を終えて、無事に峠を越し、結果も良好であるということで、本来であれば、明日に退院してくるはずであった。
いつも、朝昼晩と、最低でも3回はライブカメラで通話を寄こす。けれども、明日退院を迎える今日になって、彼からは何の音沙汰もない。
朝のおはようスタンプの1つさえない。
荷物の片付けやら、仕事の采配であちこちに連絡をしているのだろう、夕方には、すまない、忙しくて…、と連絡が来るだろうと思っていたのだが、
夜になって、やっと1本のメッセージが入った。
「熱出た明日の退院だめになった」と。
その1本きりで、後の連絡は全くない。

仕方がないので、お義母さんにその旨連絡をし、明日の金曜日は、いつも通り、お昼に行くからね、と伝えた。

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