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ダイスをころがせ
本づくりや雑誌づくりのベースとなる台割をつくることですら、ひたすら逃げ回る癖のある僕は、とにかく何においても設計図を決め過ぎるのが好きじゃなく、その場その場を常に大喜利サーフィンしながら人生を歩んでいるわけだけど、そんな僕にぴったりの企画を見つけて飛びついた。
その企画とは「サイコロきっぷ」(JR西日本)。
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大阪駅をスタートに、加賀温泉、出雲市、湯田温泉、博多と、北陸〜九州までの4駅のなかどこが出ても、往復5,000円で利用できる格安切符。しかも普通列車限定ではなく、新幹線や特急の指定席が利用できるから最高だ。
ってことで、1月の半ばに偶然この企画を知った僕は、速攻でサイコロを振ってみた。そこで出たのが、これ!
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加賀温泉!
正直、久しぶりに出雲行きたいなあ〜 なんて思ったりしてたんだけど、そこは思い通りにいくわけもない。きっと、加賀温泉駅が出たのも何かの思し召しだと、その意味するところを考えていたら、そうか!と思い出したのが、以前、ハイジの豆皿ツイートがバズったことから、ジモコロで取材までさせてもらった九谷焼メーカーの青郊さん。
九谷焼のハイジ皿が可愛すぎて即買いした。 pic.twitter.com/jN9yYJ2LB9
— 藤本智士 (@Re_Satoshi_F) August 7, 2022
というのも、加賀温泉駅から青郊のある小松駅までは電車でたった8分。金沢駅まで足伸ばすよりもさらに近い。
実のところ僕は、密かに温めていた、とある本気プロダクト企画があって、これはあの企画を青郊さんにぶつけてみろってことでは? と思うにいたった。そこで、青郊の経営者である北野兄弟に連絡。九州フェリー旅から帰ってくるや否や、サイコロ切符を持って特急サンダーバードに乗り込んだ。
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そもそもバズったこと自体、相当な偶然だ。そんなご縁を、取材記事一本で終わらせてしまったら、神さまに申し訳ない。10年以上前につくった虎の巻ならぬ「りすの巻」というZINE。僕なりの編集術をまとめた、その冊子のなかにも『偶然に大騒ぎ』という項目があるのだけれど、これは僕にとって最重要な信条。
『偶然に大騒ぎ』について、僕はよくこんな譬え話をする。美味しいものを食べにいこうと後輩を連れて行ったお店で「めちゃくちゃうめえっす!」って嬉しそうに食べる後輩と、「割と、いけますね」ってすまして食べる後輩がいたら、次にまた誘う後輩って、やっぱ前者だよね? と。つまり神様がくれたちょっとしたギフトにも大騒ぎして「え、これめちゃくちゃ奇跡じゃないすか?!まじやべぇっす!ほんとありがとうございます!いやぁーすげえっす、まじで」ってきちんと盛り上がった方が、神様も「じゃあ、また今度は違うタイプの奇跡の店連れてってやるよ」的なことになるわけで、そこはおおいにテンションあげていったほうがきっといい。
そう考えた時、ちょっとしたツイートをバズらせてくれるなんていうミラクルをこれでもかってくらい精一杯楽しんで、祭りにしなきゃ神様に失礼だ。てか、神様って何? って感じだけど。
その上で、ご縁の神様が鎮座する出雲大社ではなく、僕を加賀温泉へと導いてくれたのは、あきらかに次のギフトの前兆。連日の旅続きで企画書制作もままならかったゆえ(とかいってギリギリまでやらない人)、サンダーバードの車内、ダッシュで企画書をつくり、加賀温泉駅経由の小松駅へ。
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北陸新幹線延伸を前に工事中の小松駅。その立派な風体とは裏腹に、人は少なく、新幹線が伸びたところでここで降りる人はどれだけいるんだろう?と疑問に思う。でもきっとそういうことは役所の人とか、なんか考えてるんだろうな。高速が伸びたことでお客さんが減っちゃう国道のお店みたいな光景をふと想像してしまった。
青郊の北野兄弟との待ち合わせ時間までの間、小松の町を散策。かなり寂しめなシャッター商店街を歩きながら、グーグルマップを眺めていたら、なんとなくちょい離れたところにイオンモールがあったりして、典型的な商店街の寂れパターンだなと思う。地方はみんな車社会だから、国道沿いのイオンになにもかもが集約されて、旅人にとってはあまり嬉しくない街になっていくというのは、いろんな場所で見てきたから、なんとかこういう雰囲気ある場所で、若者があたらしいお店を始めてくれたらいいのになあと、勝手なことを思う。
しかし、それもなくはないかもと思うくらい、なんだかどこもかしこも看板フォントが素敵。そのレトロさにときめいていたら、レトロとか通り越してもはや文化遺産な喫茶店を見つけたので、企画書整理するべく入店。
駅からホテルまで歩く途中、商店街の看板フォントのレトロさにときめいてたら、めちゃくちゃええ感じの喫茶店見つけたから入ってみる。#ティールーム泉 #小松市飴屋町 pic.twitter.com/xrH9pNMxdB
— 藤本智士 (@Re_Satoshi_F) February 9, 2023
ティールーム泉。うん? どっちが入り口だ? と迷いながら手前のドアを入ると、カウンターで北國新聞を読むおばあさんが一人。そう、店主だった。
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新聞を置いて「いらっしゃい」と一言。途端に鼻唄まじりにカウンターに向かうおばあさんがなんだかとても可愛らしくて、寂しかった商店街の風景に、ポツポツと花が咲いていくような想いになる。ホットコーヒー350円。ガラスポットで温め直された珈琲を目の前のコーヒーカップに注いでくれるその間もずっと鼻歌で、熱々の珈琲と鼻歌の軽やかさに背中を押されて企画書もサクサクと整えることができた。
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その後、もう少し時間があったので、ホテルにチェックイン。サウナベースで選んだ宿ゆえ、その時間でサクッとサ活したんだけど、小松の #アパスパ サ室熱々だし、水風呂グルシンだし、めちゃくちゃととのう!これは穴場だわ。
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と、やけに充実した時間を過ごしつつ、北野兄弟と合流。車で会社へ。
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久しぶりにやってきた青郊さん。その名のとおり青い社屋に青い空。もはや懐かしさを覚える社内で、さっそく企画提案してみたら、お2人とも目を輝かせて「それやりたいです!やりましょ!」と即決。あ〜 やっぱりこういうことだったかー。サイコロ🎲切符、ありがとう。
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