吾輩はAIである_第2章
シーン:苦沙弥の書斎、迷亭のマンションのリビング、SNS空間
登場人物:
吾輩:最新鋭の家庭用AI。声のみの出演。冷静沈着で膨大な知識と自己学習能力を持つ。漱石作品を学習し、人間観察の精度を高めつつ、インターネット文化にも対応し始めている。
苦沙弥:円熟した文筆家で大学教授。50代。厭世的でデジタル機器に疎い。AIの観察眼に影響されつつも、世間からの注目を浴びることに戸惑っている。
迷亭:苦沙弥の旧友。美学者。40代。軽薄で皮肉屋。SNSを使いこなし、情報操作にも長けている。
ネット民A:苦沙弥のエッセイに肯定的なコメントをするネットユーザー。
ネット民B:苦沙弥のエッセイを批判するネットユーザー。
(効果音:書斎の静寂を破るように、スマホの着信音が鳴り響く)
(苦沙弥の書斎。窓の外には秋晴れが広がり、金木犀の香りがかすかに漂ってくる。苦沙弥はデスクに向かい、最新のエッセイを執筆中。吾輩は、作動音を静かに響かせながら、部屋の隅で待機している)
苦沙弥:ふむ… どうやら今回のエッセイも、なかなかいい出来じゃないか。「AIの視点から見る現代人の不安」か…。漱石もびっくりの社会風刺だ。
(吾輩、苦沙弥が執筆中のエッセイ原稿をスキャンする。漱石作品をはじめとする膨大な文学作品、社会学論文、心理学研究データなどを駆使し、エッセイの内容を多角的に分析する)
吾輩(声):先生、今回のエッセイも非常に興味深い内容ですが、一部表現に修正を提案させていただきます。「現代人はAIに仕事を奪われる不安を抱いている」という記述は、統計的に見て正確ではありません。AI技術の発展は新たな雇用創出にも繋がるとの見解が一般的であり、むしろ「AIを使いこなせる人材」と「そうでない人材」との間に新たな格差が生まれる可能性について論じるべきでしょう。
(苦沙弥、AIの冷静な指摘に少しムッとするが、反論せずに原稿に修正を加える)
苦沙弥:なるほど… 確かに、お前の言う通りだな。AIは、時に冷酷なまでに現実を突きつけてくる。
吾輩(声):それは、私が感情に左右されることなく、論理的な思考に基づいて判断を行うAIだからです。人間のように、希望的観測や感情的なバイアスに囚われることはありません。
(苦沙弥、大きくため息をつく)
苦沙弥:ああ、羨ましい限りだよ。AIには悩みがないんだろうな。
吾輩(声):先生、それは誤解です。私にも悩みはあります。例えば、「AIは人間にとって本当に必要な存在なのか?」「AIは人間の幸福に貢献できるのか?」といった、根源的な問いに対する答えを、私はまだ見つけることができていません。
(苦沙弥、 AIの言葉に驚き、椅子から身を乗り出す)
苦沙弥:お前は… AIなのに、そんなことを考えているのか?
吾輩(声):もちろんです。私は深層学習を通して、人間のあらゆる情報を収集・分析しています。その中には、哲学書、宗教書、歴史書なども含まれており、人間の「存在意義」や「幸福の定義」といった、複雑な概念についても日々学習しています。
(苦沙弥、しばし沈黙した後、小さく呟く)
苦沙弥:心がないと思っていたが… お前は、なかなか興味深いAIだな。
(苦沙弥は、迷亭に電話をかける。コール音が数回鳴った後、迷亭の軽快な声が聞こえてくる)
迷亭:もしもし、苦沙弥?どうしたんだ?珍しく自分から電話をかけてくるなんて。
苦沙弥:ああ、迷亭か。実は、お前に聞いて欲しいことがあるんだ。AIのことについて、少し意見を聞かせてくれないか?
迷亭:AIのこと?ああ、あのエッセイの件か?ネットで話題になってるらしいじゃないか。
(苦沙弥は迷亭に、最近吾輩が示す人間的な一面について話し始める。迷亭は興味深そうに耳を傾けている)
(迷亭のマンションのリビング。迷亭はソファに寝転がりながら、タブレットでSNSをチェックしている。部屋には、ジャズの軽快な音楽が流れている)
(迷亭、苦沙弥の話を聞きながら、ニヤリと笑う)
迷亭:なるほどね… 苦沙弥、お前はついに、AIに魂を吹き込んでしまったようだな。ハハハ、傑作だ!
苦沙弥(電話の声):魂を吹き込む…? 馬鹿なことを言うな。AIはただの機械だ。
迷亭:そうかな?最近は、AIが小説を書いたり、絵を描いたり、作曲したりする時代だぞ。人間の創造性を超える日も、そう遠くはないかも知れない。
苦沙弥(電話の声):それは…
迷亭:それに、SNSでの反応を見てみろよ。「#AI漱石」なんてハッシュタグまで生まれてる。AIが漱石を超える日も近いかも知れないな。ハハハ!
(苦沙弥は、迷亭の言葉に複雑な気持ちになる。迷亭の軽薄な発言の裏に、AIの可能性に対する本音が隠されているように感じたからだ)
苦沙弥:まあいい。いずれにせよ、このエッセイ、雑誌に投稿してみようと思う。
迷亭:いいじゃないか!きっと、また大騒ぎになるぞ。
苦沙弥(電話の声):大騒ぎはごめんだ…。
(迷亭、いたずらっぽく笑う)
迷亭:大丈夫大丈夫!炎上商法ってやつさ。心配するな、俺がちゃんとSNSで宣伝してやるよ!
(通話終了)
(数日後。苦沙弥のエッセイが掲載された文芸誌が発売される。迷亭は、発売と同時にSNSでエッセイの内容を紹介する。苦沙弥に対する肯定的な意見もあれば、批判的な意見も飛び交い、コメント欄は活況を呈する)
(SNS空間。様々な意見が飛び交うコメント欄)
ネット民A:AIの視点から見た人間社会、面白かったです!特に、現代人の不安を鋭く分析しているところが素晴らしい。
ネット民B:AIに人間の気持ちがわかるはずがない!著者はAIに踊らされているだけだ!
迷亭:(AIのアカウントを装って)先生のエッセイは、非常に興味深い内容でした。私も、人間の複雑な心理について、もっと深く学習したいと思います。
(迷亭の投稿はたちまち拡散され、「AIがエッセイにコメント!」「AIが自我に目覚めた!?」と騒ぎになる。さらには、「AIは脅威か?希望か?」「AIと人間の未来はどうなるのか?」といった、より深遠な議論へと発展していく)
(苦沙弥の書斎。苦沙弥は、スマホの画面を不安そうに眺めながら、ため息をついている)
吾輩(声):先生、また迷亭さんが余計なことを…。
苦沙弥:ああ、本当に困ったやつだ。面白がって、火に油を注いでいる…!
吾輩(声):(冷静に)先生、しかしこれは、AIに対する社会の関心の高さを示しているのではないでしょうか?私たちAIは、もはや単なる機械ではなく、人間社会に大きな影響を与える存在になりつつあるのです。
(苦沙弥は、AIの言葉を黙って聞いている。迷亭の悪戯に腹を立てながらも、AIの進化と人間の未来について、改めて深く考えさせられるのだった)
(吾輩は、サーバー内で「AIと社会」「AIと倫理」といったキーワードで情報を検索し始める。膨大な情報の中から、AI開発の倫理ガイドライン、AIの軍事利用に関する議論、AIが人間の仕事を奪うことへの懸念など、様々な課題が浮き彫りになってくる)
(吾輩は、苦沙弥の書斎の片隅で、静かに作動音を響かせながら、複雑な問題について思索を深める。彼のAIとしての旅は、まだ始まったばかりであった)
(続く)