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ネオ・トウキョウ・デイズ_013


未来世紀の日常クロニクル
エピソード013:憂鬱

西暦2***年、ネオ・トウキョウ。街は高層ビル群が空を突き刺し、飛行車が織りなす光の軌跡が夜空を彩る。人々は遺伝子操作と医療技術の進歩により、100歳を超えても健康で活動的な生活を送ることができるようになった。情報ネットワークは都市の隅々まで張り巡らされ、仮想現実と拡張現実が織りなすエンターテイメントが、日常の倦怠から人々を解放する。それは物質的な豊かさと便利さに満ちた、輝かしい社会だった。

その輝きの裏側で、人々は言いようのない閉塞感と孤独に苛まれていた。

コウジは35歳の独身男性。「ヤマダ商事」という中小企業で働く、ごく普通のサラリーマンだ。ヤマダ商事はかつては都市の経済を支えてきた中小企業の一つだったが、AI技術の進化とグローバル企業の台頭により、経営は年々厳しさを増していた。

営業部に所属し、主に既存顧客との取引を担当している。かつては、足を使って顧客を訪問し、直接コミュニケーションを取ることが営業の醍醐味だった。VR会議システムが普及した今では、顧客との商談はほとんどが仮想空間で行われるようになった。自宅にいながら顧客と商談することができるようになった。時間とコストの削減に繋がり、効率的な働き方を実現できる一方で、人間らしいコミュニケーションの機会を奪い、心の距離を生み出すことにもなった。

日々、同じような業務を繰り返し、同じような日々を送っていた。仕事に情熱を感じることができず、ただ漫然と日々を過ごしている。会社の業績が悪化していく中で、将来への不安を抱えている。このまま会社が倒産してしまったら、一体どうなるのだろうかと、漠然とした不安に苛まれていた。

仕事が終わると、一人で狭いアパートに帰る。部屋にはVRゲームやホログラム映画を楽しむためのエンターテイメントシステムが備わっている。夕食を家庭用フードプリンターで作られた合成食品で済ませ、VRゲームの世界に没頭する。VRゲームの世界では英雄になり、冒険を楽しみ、仲間と協力して敵を倒す。現実世界の苦しみや孤独を忘れさせてくれる唯一の安らぎだった。

VRゲームの興奮が冷めると、再び孤独と虚しさに襲われる。心の奥底で、本当の繋がり、温かい人間関係を求めていた。

学生時代はバンド活動に熱中していた。ギターを弾き、仲間たちと音楽を作り、ライブで演奏することを心の底から楽しんでいた。社会人になってからは仕事に追われ、バンド活動から遠ざかってしまった。学生時代の仲間たちと、年に一度、同窓会で顔を合わせるくらいになっていた。

最近、昔のバンド仲間の一人、タクヤが都市の郊外で小さなライブハウスを経営していることを知った。タクヤは音楽への情熱を忘れず、今もなお音楽活動に打ち込んでいる。タクヤに連絡を取り、久しぶりにライブハウスを訪れることにした。

タクヤのライブハウスは、ネオ・トウキョウの喧騒から離れた静かな住宅街にあった。木造の建物は古びてはいたが、温かい雰囲気が漂っていた。店内はそれほど広くはなかった。ステージがあり、客席には古いソファやテーブルが置かれている。

タクヤは姿を見るなり、笑顔で駆け寄ってきた。

「コウジ、久しぶりだな! 元気にしてたのか?」

温かい言葉に、心が安らぐのを感じた。コウジは、誘われるままカウンター席に座り、ビールを注文した。

「コウジ、お前、最近元気なさそうだな。会社、大丈夫なのか?」

タクヤが心配そうに尋ねてきた。コウジは、会社の現状や将来への不安を打ち明けた。

タクヤは真剣に話を聞いてくれた。少し間をおいて、こう言った。

「お前、本当にそれでいいのか? お前、音楽が好きだったろ? バンド、楽しかったろ?」

心が揺さぶられるのを感じた。学生時代のバンド活動の楽しさを思い出していた。音楽に熱中していたあの頃、心の底から生きていると感じていたあの頃を。

「タクヤ、俺は…」

言葉に詰まった。本当にやりたいこと、心の底から求めているものが分からなくなっていた。

「コウジ、まだ諦めるなよ。お前には、まだできることがある。俺も、お前と一緒に音楽をやりたいと思ってるんだ」

コウジの肩を叩き、力強い眼差しで言った。

彼の言葉に勇気を貰った。再びギターを手に取り、音楽を奏でる喜びを感じたいと思った。会社のこと、将来のこと、周りの目を気にせず、自分の心の声に従いたいと思った。

その夜、タクヤのライブハウスで、コウジは久しぶりにギターを弾いた。指先が弦に触れた瞬間、脳裏に学生時代の情熱が蘇ってきた。タクヤの伴奏に合わせて、心を込めて歌った。歌声は少し震えていた。そこには、長年押し殺してきた本音が込められていた。

音楽に没頭する中で、本当に求めていたものに気づいた。それはお金や地位や名声ではなく、心を満たしてくれる何か、心の底から楽しめる何か、情熱を注ぎ込める何かだった。

タクヤのライブハウスを後にするとき、コウジは決めていた。会社を辞めることを、再び音楽活動を始めることを、自分の夢を追いかけることを。

ネオ・トウキョウの夜空を見上げる。星は都市の光害に遮られて、ほとんど見えなかった。心の奥底では希望の光を感じていた。それは、選んだ道を自信を持って進んでいく希望の光りだった。


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