珊瑚にやさしい日焼け止め
Re:Coral(リコーラル)です。
今年も夏がやってきました。
夏といえば、海!
海に入る時、日焼け止めを塗る方は結構多いのではと思います。
そこで質問です。皆さんは日焼け止めを選ぶとき、何か基準はありますか?
・紫外線からしっかり守ってくれる(SPF/PA値の高いもの)
・つけ心地(ベタつかない、など)
・値段
などなど
日焼け止めは、日焼けから私たちの肌を守るために必要ですが、
海の生き物にとって必要なものではなく、むしろ有害物質だったりします。
近年では、ハワイをはじめとして
日焼け止めの利用規制のある国・地域も出てきました。
ということで、今回のテーマは『日焼け止め』です。
日焼け止めの主な成分について
まずはじめに、日焼け止めの主な成分について。
日焼け止めは、主に以下の4つの成分からできています*1。
①水や油などのベース(基材):使い心地を調整するためのベースとなる素材
②紫外線吸収剤:化学反応によって、吸収した紫外線を熱エネルギーなどに変えてくれる成分
③紫外線散乱剤:紫外線を反射してくれる成分
④保湿成分などのその他添加剤:肌の保湿・美白効能・化粧ノリをよくする、など日焼け止めの特徴を分ける成分
これら日焼け止め成分の中で特に海に有害と言われているのが、
②の紫外線吸収剤としてよく使われる
「オキシベンゾン」と
「オクチノキサート(化粧品表示名はメトキシケイヒ酸エチルヘキシル)」です。
このあとでも触れますが、
ハワイでは今年1月から、これら2つの成分を含む日焼け止めの利用が
すでに禁止されています。
では日焼け止めを利用すると、海/珊瑚にどんな影響が出るのでしょうか?
日焼け止めが与える珊瑚への影響
日焼け止めは、珊瑚の白化現象を引き起こす可能性があります。
(珊瑚の白化現象については、過去記事をご覧ください)
以下の画像は、2008年に発表された論文*2で掲載されていたものです。
実験では、メキシコ・インドネシア・エジプト・タイでそれぞれ生育する珊瑚を採取し、
日焼け止めを入れた海水と、通常の海水に入れたところ、
すべての種類で18~48時間後には白化現象(各画像の右側の白い珊瑚)が見られたそうです。
同論文の中で筆者らは、日焼け止めの成分が、
珊瑚と共生している藻類(褐虫藻)に潜伏感染し休眠状態にあるウイルスを活性化させてしまい、
危険を感知した珊瑚が褐虫藻を放出することによって、白化現象が起こるのではないかと推察しています。
日焼け止めの利用規制について
パラオ
ダイビングスポットとしても有名な太平洋島国パラオでは、
2018年11月にサンゴ礁に有害な化学物質を含む日焼け止めの販売・使用を禁止する法律が制定され、2020年1月1日に施行されました。
国レベルで禁止した初めてのケース*3になります。
ハワイ
日本でも人気リゾート、ハワイ。
ハワイでは、2018年5月に州議会でサンゴ礁への有害性が指摘される成分を含んだ日焼け止めの販売を禁止する法案が可決、7月には州知事による署名で法案が成立し、2021年1月1日に施行されました。
アメリカ国内で禁止した初めての州*4になるそうです。
アメリカ国内では、ハワイ州の他にも
フロリダ州キーウェストでも2021年1月からサンゴ礁に悪影響のある日焼け止めの販売が禁止されました*5。
オランダ領ボネール
こちらもダイビングスポットとして人気の高い、カリブ海に浮かぶオランダ領ボネール島。
上記のハワイの法案にならって、同時期の2018年5月に、
オキシベンゾンとオクチノキサートが含まれるすべての日焼け止め製品の販売禁止が決定、2021年1月1日に施行されました*6。
まとめ
現時点では、規制対象となる化学物質の数、規制対象行為、罰則内容からみても、パラオが一番厳しいといえます。
これら国・地域以外にも、
メキシコ自然保護区(カンクンやコスメルなど)では2021年1月から
生分解性ではない日焼け止めの使用を禁止しており、
自然にやさしい日焼け止めを使おうとする地域が世界的にも増えてきています。
パラオ以外の地域では、今のところ販売のみ規制対象とされていますが、
いずれは規制がより厳しくなり、使用すること自体も禁止される可能性もあるでしょう。
また、大正製薬のウェブサイト上に世界の日焼け止め利用規制状況についてまとめているページ*7がありました。こちらも参考にしてみると良いかもしれません。
珊瑚にやさしい日焼け止めはどうやって探したらいい?
日本でも、珊瑚にやさしい日焼け止めは販売されています。
ダイビング情報サイトに環境にやさしい日焼け止め製品が一部紹介されていた*8ので、ぜひ参考にしてみてください。
他にも新しい製品や種類はもっとありますし、ネット販売されていたりするものもあります。
また、自分の肌にも合った日焼け止めを選びたいですよね。
今後日焼け止めを探すときは、以下を気にてみてください!
・禁止化学成分(オキシベンゾン、オクチノキサートなど)が入っていないかどうか
・「ノンケミカル(※)」あるいは「紫外線吸収剤不使用」の表示があるもの
※日焼け止めにおいて、紫外線吸収剤を使っていないものを「ノンケミカル」と言うそうです*9。
おわりに
日焼け止めは、自分自身の肌を守るために使うことがまだ一般的ではありますが、これからは自分だけでなく、環境も守る・環境にも配慮した日焼け止めを使っていきたいですね。
皆さんがこれから日焼け止めを選ぶ際に、
「海/珊瑚にやさしいか」という基準も追加してみませんか?
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参考文献
*1:Aggressive Design・コラム「日焼け止めって何でできているの?」(株式会社和光ケミカル)
*2:Roberto Danovaro et al (2008) "Sunscreens Cause Coral Bleaching by Promoting Viral Infections" Environ Health Perspect. 2008 Apr; 116(4): 441–447.
*3:BBC Japan「パラオ、有害成分含む日焼け止めを全面禁止 世界初」(2018年11月2日)
*4:BBC Japan「米ハワイ州、サンゴに有害な日焼け止め禁止へ」(2018年5月4日)
*5:New York Times “Key West Bans Sunscreen Containing Chemicals Believed to Harm Coral Reefs” (February 7th, 2019)
*6:PADI「あなたの使っている日焼け止め、サンゴにダメージを与えていませんか?」
*7:大正製薬「お気に入りの「日焼け止め」が使えない⁉知っておきたい「“紫外線吸収剤入り”の日焼け止め」が使えない場所」
*8:Marine Diving Web「サンゴにも肌にも優しい日焼け止め5選」(2020年3月5日)
*9:KOSÉ・よくあるご質問「ノンケミカルとは何ですか。」