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カエルの間も、市民と研究者の間も。間をつなぐ生物学者。

森・里・海のつながりを総合的に研究する「RE:CONNECT(リコネクト)」。RE:CONNECTは、日本財団と京都大学が共同で行っているプロジェクトです。このプロジェクトは、専門分野や考え方、取り組みがユニークな研究者たちが集い、市民と一緒に調査や環境保全に取り組む「シチズンサイエンス」という考え方をもとに活動しています。今回紹介するのは、ビッグデータの解析を行うチームに所属する伊藤真さんです。

▶RE:CONNECT公式サイト


カエルのメスとオスの間で分かったこと

気さくでプロジェクトチームのムードメーカーでもある伊藤さんは常に「間」にいること、「間」であることを意識してきました。そのことは、これからのRE:CONNECTはもちろん、環境問題や科学にも重要であるということ。そんな「間」の大切さについて。

現在、伊藤さんはRE:CONNECTでビッグデータの解析を行っています。例えば、川の水質データや漁獲量、時には国勢調査のデータなど、調査されたまま残された膨大なデータが日本にはたくさん存在しています。

また、シチズンサイエンスによって市民から提供されるビッグデータについてもその解析は重要です。同じプロジェクトチームのメンバーが行っているAI分析によって得られるゴミの種類や分布のデータ、テキストマイニングで掘り起こされる市民の声など、大量のデータをRE:CONNECTでは集めています。

これらのビッグデータはそのままではただのデータにすぎません。データに合わせた解析を行い、他のデータと対応させ分析することで新しい価値や意味が生まれます。このようなデータと研究の「間」をつなぐ役割を担う伊藤さん。

彼はもともと生物の分野で活動している、カエルのプロフェッショナルなのです。その中でも鳴き声に注目して研究を行っています。カエルの鳴き声研究に必要なのは、ひたすら待つこと。そして忍耐力。伊藤さんが待ちに待って研究調査したのは、「メスも鳴くかどうか」ということでした。

通常、鳴き袋がついているオスは求愛のために「ゲコゲコ」と鳴いています。しかし、鳴き袋がないメスも鳴くのでは?と思い、研究を行いました。

カエルを田畑で捕まえ、実験室で飼育しながらビデオで撮影し、ひたすらその映像を見続ける日々。ある日、メスが鳴く瞬間と出会います。その鳴き声は、鳴き袋がないので、か細く、ある程度の距離に近づかないと聞こえないものだったそうです。

なぜ、メスは鳴いたのか。

このことを研究していくと分かったこと。その答えが「オスとメスの間」にありました。

つまり、繁殖期ではないメスが近づいていくるオスを拒絶するための合図のために鳴いていたそうです。しかも、ある程度オスが近づかないと聞こえないくらいの鳴き声だったので、人間もなかなか聞き取れなかったと言います。

カエルの世界は奥が深く、まだまだ謎深い生き物。しかし、カエルの研究だけでやっていくことに限界を感じていた伊藤さん。もっとカエル以外にも目を向けて研究を進め自分の世界を広げたいと感じていたところ、RE:CONNECTと出会います。

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カエルのメスが鳴くまでひたすら田畑に通っていましたと語る伊藤さん


データとデータの間から見えてくるもの

RE:CONNECTのメンバーになる前は、予備校講師をしたり、サイエンス系の高校生ポスターコンテストの審査員をしたり。いわゆる研究者たちではなく、一般市民や学生たちと関わる日々の中、偶然、研究者用の就活サイトでRE:CONNECTの存在を知ります。

特に惹かれたのは、RE:CONNECTが掲げているシチズンサイエンス。それは市民と研究者が協力して研究を進めること

例えば日本中の方からスーパーのカキの写真を提供してもらい、地域ごとの違いを解析したり、近所の外来種の写真を送ってもらうことで侵略状況を素早く把握したり。

市民の方々に協力してもらうためには自分たちの研究を一般市民に向けて発信し、一般市民に理解し共感してもらうことが必要になります。それは自分が得意とすることでした。伊藤さんはすぐにエントリーし、面接で想いを伝え、晴れてプロジェクトメンバーに。

現在、伊藤さんは多様なデータを掛け合わせて、まさにデータとデータの間をつないで分析しています。データを取って終わりではなく、例えば「川の水と海の豊かさの関係」を調査・分析する場合、どのような要素が影響しているのかを別のデータを掛け合わせていくと見えてくるものがあると語ります。

また今まで自分1人では実現できないアイデアもチームなら達成できると感じ、「同じプロジェクトチームのメンバーの間もつないでいます」と語る伊藤さん。他のプロジェクトメンバーの研究・調査に伊藤さんならではの視点やアイデアがヒントになることも多く、RE:CONNECTだからこそ実現できる多様な視点で研究を行なっています。


市民と研究者、研究者と研究者の間をつなぐこと

自分のキャラクターや今までの経験、得意なことを生かして、自分が「間」をつなぐことを積極的に行っていきたいと語る伊藤さん。プロジェクト内では分野外の研究の話も積極的に聞きに行き、また生物学が専門でないメンバーに生物学的な考え方を伝え研究を発展させるなど、様々なメンバーとのコミュニケーションを積極的にとっています。

その結果、環境問題を解決するために社会学や心理学の手法を活かした取り組みをするなど、分野を大きく超えた新しい研究が行われつつあります。

伊藤さんは市民と研究者をつなぐことはもちろん、研究者と研究者の間をつなぐことも重要だと語ります。

おたがいの研究をもっと面白いものに、もっと有意義なものにするため、共同研究という形での協力はもちろん、人材の紹介やノウハウ共有のフォーマット化など、それぞれがバラバラにあるのではなく、分野の壁を超えて研究者同士が相互理解できるような意識が大切だということ。

また、伊藤さんは研究者と市民の間の関係もさらに向上させたいと考えています。研究者が市民に向けて発信するときに、どうしてもリテラシーが高くなったり、語り方が上から目線になってしまうこともあります。どのような目線や語り口で発信すれば、どのように届くのかを感じてもらいたいと語る伊藤さん。

「今すぐ応用できない基礎研究について“役に立たない”と表現するのではなく、そもそも研究自体の価値を研究者自身が、面白いぞ!と発信する必要があると思います。そのことを行うのもRE:CONNECTの役割のひとつですね」

伊藤さん自身やRE:CONNECTの発信の仕方をさまざまな研究者にも見てもらい、実践してもらうということ。そうすることで、市民と研究者が乖離している関係性が変わるのでは?と考えている伊藤さん。カエルのメスとオスの間で待ち続けていた時のように、その時が来るまで長い時間を「間」にいる存在として関わり続けていきます。



伊藤真

伊藤 真(動物行動学)
森里海連環学教育研究ユニット 特定研究員

これまでは動物行動学者として、トノサマガエルのメスが発する鳴き声についての研究をしてきました。他にも豊富な予備校講師経験を生かして出前授業など社会に向けてのも活動にも積極的に取り組んできました。

Re:connectでは主にビッグデータを解析してこれまで得られたデータから様々な関係を探る研究をしています。また、市民科学を動かしやすくするためのシステム作りやクイズを利用した社会連携活動など、「研究は楽しい」をモットーに新しいことにもどんどんトライしています。





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