その土地に住み、土地の人とともに環境問題に挑む研究者
亀岡さんは学生時代にインドネシア・スマトラ島のリアウ州で熱帯泥炭地火災をテーマに滞在型研究を行っていました。
泥炭地とは植物遺体などの有機物が堆積してできた土壌のこと。もともと泥炭地は表面が水で覆われた湿地環境でしたが、パーム油用のアブラヤシやパルプ用のアカシアの栽培のために排水がなされ、乾燥化が進みました。
乾燥化した泥炭地では火災が起きやすく、2015年には、兵庫県の面積に匹敵する約86万haの泥炭地がインドネシア全体で焼失しています。大量の有機物を保有した泥炭地は膨大な量の二酸化炭素を排出します。2015年の森林・泥炭地火災では、その最大量は日本の二酸化炭素の年間排出量の70%以上にも上ると見積もられています。
亀岡さんの研究の目的はこの泥炭地火災の問題解決を図ること、さらにその先には自然と人間との共存を見据えています。
そんな地球規模の環境問題に挑む亀岡さんが大切にしていることがあります。
自分の目で確かめること
「相手と仲良くなろうと思ったら、相手のことを知り、理解したいと思いますよね」と亀岡さん。
環境問題に対する心構えは、人に対する心構えと同じ。まずは自分の目で確かめてみることから研究がはじまります。
インドネシアの調査地では、行政の土地利用データと実際の土地利用が異なっていたり、火災は焼き畑ではなくタバコのポイ捨てが原因だったり、データを見ているだけでは問題の本質を見極められないこともあると亀岡さんはいいます。
インドネシアに行くまでは、熱帯泥炭地火災をマクロな環境問題として捉えてきた亀岡さん。
しかし、火災で畑を失い生活を追われる人たち、火災の煙で健康を害した人たちを現地で目の当たりにします。彼らも環境問題に興味がない訳ではありません。ただ、生活をしていくためには火災のリスクよりも目の前の収入を優先せざるを得ないのが現状でした。
現状を知り、現地の人の考えを聞き、「世界的な環境問題」から「目の前にいる人のために貢献できることをしたい」という思いが芽生えていったと亀岡さんは言います。
現地の人と一緒に取り組むこと
滞在型研究とはその名の通り、現地に住み込み現地の人に協力してもらいながら調査や実験などを行う研究方法です。亀岡さんは2018年5月から2020年3月にかけてインドネシアに滞在し、泥炭地火災が発生する土地利用や地下水位の調査、衛星やドローンによる火災分布の可視化などに取り組みました。
亀岡さんの携わったプロジェクトでは、泥炭地の排水路の一部をせき止めて、乾燥化した泥炭地を再湿地化し、地下水位の回復を試みる活動を実施していました。
村人の土地を借りて「せき」を設置するために、プロジェクトへの村人の理解が欠かせません。村人と意見が合わなかったり、反対する人が出てくることもあるそう。
「知らない人が突然来て、自分達の土地で見慣れない活動を始めたら不安ですよね」
亀岡さんは伝えたいことを「可視化」して見せるように工夫しています。
排水路をせき止めると洪水が起こるのではと心配する村人に、地域全体の排水路の流量を図で示すことで、村人も納得し協力が得られるようなりました。
また、亀岡さんは村人の価値観に寄り添い、彼らの生活に利益が還元できる提案を心がけています。村人も一緒になって取り組むことができれば、地域全体の再湿地化が実現できるかもしれません。これまで村人が各々行っていた焼け跡地への植林も、亀岡さんが参画したプロジェクトがきっかけとなり、ネットワークが広がっています。
「現地の人と一緒に」
何度もこの言葉を口にする亀岡さんの思いの源はどこにあるのでしょうか。
地域みんなが助け合い、みんなが笑顔に
子どもの頃を愛媛県の自然豊かな地方で過ごした亀岡さんの周りには、いつも地域の人たちの存在がありました。困ったときはお互いに助け合う、そんな風土で自然と亀岡さんの中にも助け合いの気持ちが育まれていったといいます。
インドネシアで出会ったかけがえのない友人たち。彼らに火災の被害に見舞われることのない、安全な暮らしをしてほしい。そのために研究者と現地の人が助け合い、自然と人間が共存する形を一緒に模索していきたいと亀岡さんは考えています。
「目の前にいる人のために貢献したい」
その思いはやがて大きなムーブメントを起こしていくかもしれません。
亀岡さんのまわりには、いつも現地の人の笑顔があふれています。
関連サイト
▼私が研究者になったキッカケ RE:CONNECT×Nue inc note企画第1弾https://note.com/tkameoka/n/nae719cac69b7
▼Newsletter No.04 2018.8.1 地域研究の魅力(p5-6)(外部サイト)https://www.chikyu.ac.jp/peatlands/img/newsletter/vol4.pdf