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環境問題と市民を、社会心理学とクイズでつなぐ人
森・里・海のつながりを総合的に研究する「RE:CONNECT(リコネクト)」。RE:CONNECTは、日本財団と京都大学が共同で行っているプロジェクトです。このプロジェクトは、専門分野や考え方、取り組みがユニークな研究者たちが集い、市民と一緒に調査や環境保全に取り組む「シチズンサイエンス」という考え方をもとに活動しています。今回紹介するのは、テキストマイニングを行うチームに所属する打田篤彦さんです。
▶RE:CONNECT公式サイト
環境系プロジェクトに、社会心理学からアプローチ
関係性が大事な時代。デジタル技術によって、遠く離れていてもつながることができる現代、人と人、人とまちが濃い関係になるということはお金では得られないものかもしれません。
お金だけではなく、例えば人と人の関係性があるから面白い仕事ができる、人とまちの関係性があるから安心安全で豊かに暮らせる、といったことを評価する考え方が「社会関係資本(Social Capital)」です。
信頼や助け合いを「資本」と捉える研究を行う打田さん。RE:CONNECTでは、社会関係資本に着目しつつネット上のテキスト分析や、まちの景観分析を行い、どう環境とつながっているのかを調査しています。そのような調査研究を行う打田さんは環境系の研究者ではなく、社会心理学が専門領域です。
高校時代は理系のクラスでしたが、一番興味を持った科目は倫理だったと言います。その学びが入口となり、大学では心理学部、編入して神学部で学んでいくうちに、社会心理学の方法論を選び、その研究の中で社会関係資本に辿り着いたそうです。
現在、博士課程の途中である打田さん。このRE:CONNECTへの参加のきっかけは別のプロジェクトに参加した時、RE:CONNECTの代表でもある伊勢武史さんと出会ったことでした。RE:CONNECTは理系の人だけではなく、社会学や心理学の研究者も参加して欲しいと聞いていたので、プロジェクトに参加することとなったそうです。
TwitterやGoogleストリートビューを調査のおともに
現在、打田さんはインターネット上で調査できることを主に行っています。
1つはTwitterのテキストマイニング。これは、Twitter上でどのような特性を持ったアカウントが、どのような時にどのような種類の環境問題に言及しているのかを分析・調査するというもの。
プログラミングコードから特定のキーワードを含むツイート(投稿)を探し出し、単語ごとに分類し、定量的に分析していくことで、今、Twitter上で環境問題についてどのような興味・関心があるのかが浮き彫りになるそうです。例えば有料化がスタートしたレジ袋について、テキストマイニングで分析すると、当初から時間を経て変わっていく話題を可視化して捉えることができました。
レジ袋に関する投稿を分析した結果を表す図
またGoogleストリートビューと社会調査を組み合わせ、景観とそこに暮らす人々の関係性も読み解いている打田さん。Googleストリートビューに掲載されているまちの画像を機械学習で識別させていくことで、植栽や街並みから地域の特徴が見えてくるというもの。
まだ調査途中なのですが、家々の植栽が豊富なことと市民と社会関係資本との関連を調査しています。社会調査で推定するその地域での「社会関係資本」という見えないつながりの要素と物理的な地域の特徴との関連を見出して、公共空間としてのまちをより良くできる可能性を打田さんは調査しています。
Googleストリートビューによる識別例
「もっとデータの意味に実感を持ってもらい、私たち1人ひとりが自分ごとにすることが必要です」と語る打田さん。
環境問題は個々人に関係がある問題として、1人ひとりが意識して、行動することが重要な中、打田さんがRE:CONNECTを通して届けることとは?
コロナ禍でもインターネット上の「フィールドワーク」は可能
環境問題をクイズにして、データに実感を持ってもらうということ
社会科学でよく知られた「共有地の悲劇」というモデルがあります。これは複数の農家が共同利用する牧草地を舞台にしたものです。
限りある牧草を農家どうしが奪い合う構図になるわけですが、誰もが野放図に自分の家畜に牧草を食べさせれば、牧草地自体を維持できません。しかし、自分だけが消費する牧草の量を制限しても、その分を他の農家が消費するだけかもしれません。このようにして、何も取り決めがなければ全員が全員にとって不利益となる選択を強いられる羽目になります。
このモデルは環境問題も同様です。「自分1人、ちょっとくらいゴミをそのへんに捨てても、多めに資源を消費し、CO2を多めに出しても大丈夫だと一定以上の人が考えてしまうことで、地球規模の環境問題につながります」。これに加えて環境問題には、原因を作る人と実害を被る人が一致しない「社会的コンフリクト」という状態や、そもそも因果関係やデータの意味が専門家以外には見えにくいという難しさがあると打田さんは語ります。
それゆえに、自分1人では何も変わらないという考えから、自分1人の行動が環境問題に影響するという認識を持つこと。つまり、個人の行動が環境問題とつながっていることを理解し、問題構造に私たち個人が気づくことが重要だと語ります。打田さんは、環境問題に関する事実をより身近に感じ、市民の方に実感を持ってもらうための手段として「クイズ」の活用も考えています。
そのプロジェクト名は「地Q」。
例えば、CO2の排出量を数字で聞いてもピンとこないのですが、「東京・大阪間を飛行機で移動するのは、乗用車での何往復分のCO2排出量にあたるでしょう?」といった環境に関するデータをクイズにして、自分の生活により身近な例で実感しやすくする取り組みを進めています。市民1人ひとりの意識が変わり行動してもらえるように。
そして、RE:CONNECTを通してさまざまな人たちが交流し、「つながり」という見えない資本が環境問題の解決につながるように。打田さんは、その可能性を信じて今日も活動しています。
打田 篤彦(社会心理学)
森里海連環学教育研究ユニット リサーチアシスタント
京都大学大学院 人間・環境学研究科 博士後期課程
不可視の社会基盤である〈人と人との信頼や助け合いの精神〉をどう成立させるかを大きな問いとし、現地調査、社会調査、心理実験、テキスト分析、あるいは景観の分析に取り組んできました。
このプロジェクトでは、人間社会による自然環境との関わり方という薄められがちな「みんなの問題」について、ソーシャルメディア、あるいは身の回りの景観の定量的な分析を通じ、集合的な意識の可視化を行います。