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自伝小説 ままごとかあさん14 おかあさんに言いなさい

小学生になると

母への不満は

ますます積もって行った。


学校からのプリントは

いつも醤油で汚れた

テーブルの上に置かれた。

ワタシはプリントに醤油のシミがつくのが

イヤだったので

「ご飯が終わったらテーブル拭こうよ」

と言ってみた。

「わかったよ」

と母は言うものの

テーブルは拭かれない。

その後、何度か言ってみたが

母がテーブルを拭くことは無かった。

そもそも家には

テーブルを拭くようなフキンも無かった。


ワタシは考えて

父にプリントを渡せばいいんだと閃いた。

いつも怒っている父が怖かったけど

何とか声をかけて渡すことができた。

でも、父はプリントを返してきて

「おかあさんに渡しなさい」

と言った。

ワタシは

父に母がテーブルを拭かないことを

伝えようと思うけれど

上手く言葉にならない。

「はい」

と言ってまたプリントを受け取る。

母に渡すと

やっぱり汚れたテーブルに置かれた。

結局、醤油のシミがついたプリントを

学校へ提出することになった。

ワタシはたまらなく恥ずかしかった。



給食着は当番が終わると

週末に持ち帰り洗濯をすることになっていた。

母は給食着を見ると

「綺麗だから洗わなくていいわね」

と言って洗濯をしようとしない。

ワタシは

「汚れが付いてなくても使ったから洗ってよ」

と母にお願いした。

「わかったよ」

と母は言うが

月曜日の朝、

持って行く給食着を確認すると

そのままだった。

母に言うと

「だって面倒くさいから」

との答え。

ワタシが頼んだことをするのが

そんなに面倒なのか…

母の答えに気分が悪くなる。

どう考えても案は浮かばず、

仕方なくそのまま持って行った。

ある日

ワタシの次に

給食着を使っている子のおかあさんが

「りかちゃんのおかあさんは

給食着にアイロンかけるの上手だね」

と声をかけてくれた。

ワタシは実は母は給食着を洗濯して

いないんです!

と言いたかったけど

恥ずかしくて言葉が出なかった。

ただ、こくりとうなずいただけだった。

洗っていないと知っていて

何も言えない自分は

とても悪いことをしていると思った。



学校で先生がプリントを配る

「おかあさんからお返事もらってきてね」


近所の人が言う

「おかあさんに伝えてね」


祖母や祖父や父が言う

「おかあさんに言いなさい」


その

‘’おかあさん‘’

に伝えても通じないんだよ!

とみんなに言いたかった。


でも

ワタシの中で恥ずかしさが大きくなり

この母のことを隠さなければ

と思うようになっていた。



「おかあさんに言いなさい」

という何でもない言葉。 

でも?

とワタシは思う。

おかあさんのいない子は

そんなこと言われたらどう思うだろう?

ワタシみたいな

言葉の通じないおかあさんを

持っている子や

病気のおかあさんの子もいるかもしれない。

何でも同じにしてしまうのは大雑把すぎる。


そんな世の中への疑問もわいた。


「おかあさんに言いなさい」

フツーなら何でもない言葉。

ワタシはそう言われるのが大嫌いになった。



つづく


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りか
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