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2025年の崖を越えるためにどうするか(2)

前回,DXレポートのうち,老朽システムの状況,IT人材の所属,2025年の崖問題について解説した.今回は,DXを実現する対応策の中から,DX推進システムガイドライン,見える化指標,ITシステム構築におけるコスト・リスク低減策について説明する.

3段階デジタル変革

「DXに向けた研究会」では,当初,直ちにデジタル変革を実施すべきだという意見に対して,大企業委員からの反対が強かった.このため,2020年までをデジタル変革の準備期間として,2021年から2024年までをデジタル変革に集中する移行期間とすることになった.これにより,2025年の崖を克服することで「DXに向けた研究会」の委員の意見がまとまった.
2025年には大阪万博が開催される.また,2025年には,世界人口の約3倍の200億のデバイスがネットワークで接続され,グローバル経済の1/3がエコシステムになると予測されている.
 まだ,これからDXに取組む企業の場合,この3段階は参考になるのではないか.

図1 3段階デジタル変革

DXを実現する対応策

DXレポートでは,デジタル変革を実現するための施策として,以下を提案している.
(1)「DX推進システムガイドライン」の策定
(2)「見える化」指標、診断スキームの構築
(3)ITシステム構築におけるコスト・リスク低減策
(4)ユーザ企業・ITベンダ企業の目指すべき姿と双方の新たな関係の構築
(5)DX人材の育成・確保
(6)ITシステム刷新の見通し明確化

DX推進システムガイドライン

「DX推進システムガイドライン」では,具体的な質問項目によって企業がデジタル変革を推進するための活動を例示している.たとえば,経営戦略におけるデジタル変革の位置付けの明確化では,①経営戦略におけるDXの位置づけ,②経営戦略とDXの関係,③変化への迅速な対応力について,ガイドラインを説明している.

「見える化」指標

デジタル変革指標については,多くの先行指標が提案されているので,ここでは,Deakinら[2]によるデジタル変革の見える化指標を紹介する.Deakinらは,焦点化,スコープ,適応型設計運営,迅速性,戦略的リーダシップ,実行リーダシップからなる6次元のデジタル変革推進指標を提案している.
【焦点化】
 ①    組織間で変革目的を共有
 ②財務効果の評価シナリオを定義
 ③現行ビジネスに基づく財務評価
 ④事業成果に紐づくデジタル課題設定
【スコープ】
①単一機能
②単一部門
③複数部門
④全社的
【適応型設計運営】
①戦略を事業部門と動的に共有
②デジタル人材を動的に配置
③営業支出をデジタル分野に再配分
【迅速性】
①社員が協働
②アイデア創出を推奨
③仮説検証を推奨
④リスクをとることを推奨
⑤優秀な社員の獲得と育成
⑥自律的に社員が事業判断
【戦略的リーダシップ】
①上級リーダが定期的に投資市場を更新
②デジタル技術に精通する役員がいる
③CDOを設置
④CEOの稼動をデジタル変革に配分
⑤上級リーダの最優先事項がデジタル変革
【実行リーダシップ】
①役割分担が明確
②ゴール遂行の説明責任が明確
③プロジェクト責任者が明確
デジタル変革の推進指標を用いて,デジタル変革成功企業とそうでない企業のデジタル変革状況を図示すると,図2のようになる.デジタル変革成功企業がすべての次元でそうでないの企業の指標値を上回っていることが分かる.

図2 デジタル変革推進指標の例

ITシステム構築におけるコスト・リスク低減策

コスト・リスク低減策として,次の4点を列挙している.
1)刷新後のシステムが実現すべきゴールイメージの共有
2)不要な機能を廃棄による規模と複雑度の軽減
3)刷新におけるマイクロサービス等の活用
4)協調領域における共通プラットフォームの構築

 まず,DXゴールイメージの共有では,老朽システム刷新後の目標設定について、経営者、事業部門、情報システム部門等プロジェクトに関わるすべてのステークホルダが認識を共有することが重要である.このため,老朽システム刷新後に実現すべきアーキテクチャを示す「DX参照アーキテクチャ」を策定することを提案した.
 次に,不要な機能の廃棄では,「見える化」指標に基づく診断の活用等により、情報資産の現状を分析・評価し、廃棄できるものの仕分けを行うことが重要である。この場合,事業部門等からの強い抵抗が想定されるので、経営トップによる強固なリーダシップが必要だとしている.
 さらに,マイクロサービス等の活用では,、ビジネス上頻繁に更新することが求められる機能については、システム刷新における移行時において、マイクロサービス化することによって細分化し、アジャイル開発方法により段階的に刷新するアプローチの必要性を指摘している.
 最後に,協調領域における共通プラットフォームの構築を提言している理由は,次の通りである.
既存システムの刷新には、数年間に及ぶ、多額の費用が発生する事例が多く見られる.このため,経営層が、投資リスクの高さが先に立ってしまい、システム刷新に向けた戦略的な投資を判断できない可能性が高い.
また,共通プラットフォームの構築では,協調領域の見極め,共通プラットフォーム利用へのインセンティブ,オープン技術を活用した共通プラットフォームの構築・運用の取組みが重要になるとしている.

まとめ

今回は,3段階からなるデジタル変革と,DXを実現する6個の対応策の最初の3項目を説明した.
次回は,DXを実現する対応策の中で,残った3項目,すなわち,ユーザ企業・ITベンダ企業の目指すべき姿と双方の新たな関係の構築,DX人材の育成・確保,ITシステム刷新の見通し明確化について説明する.

参考文献

[1] 経済産業省, DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開, 2018.9.7
[2] Jonathan Deakin, Laura LaBerge, Barbara O’Beirne, Five moves to make during a digital transformation, McKinsey Digital, April 2019

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