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同じ水槽なのに印象が180°変わった話

はじめての海遊館

 大阪の海遊館に初めて訪れたのは、学生の頃だった。海遊館と言えば、館内中央にある「太平洋」水槽。その大水槽を観ることが本当に楽しみだった。

 まずは屋外の水槽から観ていく。休日だったからとても混雑していて、人気のカワウソは、背伸びをして、やっとうずくまっている様子が見える程度だったのを覚えている。

 館内に入ると、すぐに大水槽が見える。小さなガラスの窓の中をジンベエザメやエイなどの大型の生き物がゆったりと通り過ぎる。

 とにかくダイナミックで、同じ生き物とは思えない。その後、他の水槽も観ながら、ドーナツ状の館内を下りながら進んでいく。海遊館では、中央の大水槽を囲むように通路が配置されていて、真ん中の大水槽と外側の水槽を同時に観ていくことになる。外側の水槽を観て、気持ちを新たに中央の大水槽を観て、再び驚く。これの繰り返しで進んでいく。

 でも、さすがに大水槽がしつこく感じてくる。最初のインパクトはあったのに、何度も何度も観てしまったから、感動よりも飽きてきたという印象が
強く残ってしまった。それが一番記憶に残っている。僕にとって初めての海遊館だった。

2回目の海遊館

 それから6年後、再び海遊館を訪れた。大水槽を久しぶりに観られる。何か変わったことがあるかな。期待はそれほど大きくはなかった。今度はたまたま平日だったので、館内が比較的空いていて、あのときのカワウソをじっくり観る。そしてまた、あの大水槽の前に立つ。

 最初の印象はあの時と同じ。水槽の横からジンベエザメがぬーっと現れ、少しずつ姿が見えてくる。やっぱりすごいなあ。そして、その後も順に展示を観ていく。

 サンゴ礁の水槽は2つのフロアにまたがっている。まずは上のフロアから、ボートに乗っているような感覚で、サンゴ礁を見下す。次は下のフロアから、魚と一緒に泳いでいるように水中の様子を見る。サンゴと暮らす魚たちは、どこから観ても色鮮やか。


 ふと、大水槽に目を向けると、自分が水槽の中層あたりにいることに気がつく。ロウニンアジが、群れをつくって泳いでいる。迫力がある。

 ペンギン水槽は、改修されていたらしく、陸と海の両方からペンギンの様子が観察できる。南極ペンギンのお腹が白いのは、下から見たときに、真っ白な氷となじむことで、天敵に見つかりにくくなるためと言われている。展示の工夫が、それを教えてくれる。


 そしてまた大水槽の前に立った時、今度は水槽の底の方がよく見える高さにいた。たくさんのエイやサメ、クエたちが寝そべっている。海底では、急に時の流れが止まる。でも、これが海底の生活。

 そして、ここでふと気が付いた。これまで、表層、中層、海底と、大水槽に棲む生き物の移り変わりを見た。他の水槽でも、生き物を色んな視点から見ることができた。実は、海遊館はそういう造りになっている。大水槽に限らず、1つの水槽を色んな角度から、色んな視点から見させてくれる。今回はそれが全て良く感じられた。しつこさを一切感じなかった。さらに、あとで調べてみたところ、海遊館のコンセプトは「すべてのものは、つながっている。」だった。水族館がどこまで意図しているか分からないが、観覧者が色んな視点で生き物や環境をのぞくことで、必然的に色んなつながりを感じさせられる。海にはかなりの深さがあるわけだが、表層から海底まで確かにつながっている。もちろん、サンゴが棲む浅瀬からジンベエザメの棲む沖まで平面的にもつながっている。

 熱帯雨林水槽も印象的だった。同じ場所に棲んでいる陸の生き物と水中の生き物を、同じ空間で飼育することで、つながりを感じさせてくれる。水と陸もつながっている。こういった展示は、つながりを大事にする海遊館ならではの水槽だ。生態系の一部を切り取った感じが出てしまう点、展示には表現の限界があると感じていたが、このように陸の生き物も取り込む展示であれば、実は生態系はつがっているんだということを感じられる。


この違いは何なのか

 さて、話を戻すと、海遊館に初めて訪れたときは、しつこい展示に飽きてしまい、どちらかというとマイナスの印象を受けた。ところが、2回目はしつこさの中に違いを見出し、色んな角度から展示を楽しめた。これが不思議だった。もしかしたら昔の僕は飽きっぽかったのかもしれない。自分が変わったのかもしれない。物の見方が変わったり、色んな事に気が付けるようになったのかもしれない。それとも、その日の気分次第で考えることや視点が変わるのかもしれない。心に余裕がないときは、急いで展示を観てしまったりするけど、余裕があるときはゆっくり観ることができて、気が付くことも多いから、つまりそういうことなのかもしれない。

 もちろん、水族館が変化しているのも要因の一つかもしれない。一定の期間で展示が変わるし、毎日生き物の動きも位置も変わるし、時間帯によっても変わる。

 2回の訪問でどうしてこんなに印象が違ったのか、結局はっきりとした理由は分からない。分かったことは、心に余裕がある方がいろんなことに気が付くし、偶然見られるものを楽しめたりすることである。水族館に限らず、何に対してもそういう楽しみ方ができるなら、人生をまだまだ楽しめそうだなあと思う。


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