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定食屋さんのはなし
今夜は、お気に入りの定食屋さんについて書こうと思う。そのお店はうちの近所にある老舗なんだけど、まるで自分のおばあちゃんちみたいにあったかくて、めちゃくちゃご飯が美味い。そして
女将さんはいつも暇そうにしている。
「こんにちは〜」と言って暖簾をくぐり抜けると、目の前のレジで座ったまま「どこでも座って」と言われる。初めて訪れた日には、あまりにやる気のない女将だなと笑ってしまった。
私達はいつも女将さんから1番近くの席に座る。
それからメニューを開くと「どれにする?」とか言いながら、てくてく寄ってくる。私が「今日は生姜焼きかな。旦那さんはカレーがいいかな」と悩んでいると「良いチョイスだね〜」と何でも褒めてくる。それから結局私達は毎度のように「生姜焼き」と「カレー」を頼むんだけど、女将さんは「良いメニューを選んだよ」と言いながらそそくさ厨房に向かう。
それから厨房にいる女将さんは遠くから話しかけてくる。「コーヒーとか、お茶とかテキトーに飲んで待っててな〜」なんて。
その後も厨房にいる女将さんと、私達は離れたところで会話を続ける。女将さんが60歳から調理師学校に通った話や、うちの息子が小学生になる話、物価のはなしや、女将さんの身長が5センチも背が低くなっただとか、なんでもかんでも冗談混じり。ケラケラ笑いながら話す。というのも客は私達しかいないのだ。
それから私は出来上がった料理を運んでもらい、女将さんに「いただきます」と言いながら食べる。一口目を食べている間に女将は食い気味に「美味いだろ?」と聞いてくる。私は笑う。
生姜焼きはりんごと生姜がたっぷり擦られている。甘辛で絶品。御前に乗っているポテトサラダや漬物や、汁物がいつも違っていつも実家みたいな味がする。
カレーは手作りでスパイスたっぷり.辛口でコクのある山盛りカレーだ。
そうして食べている間に、イチゴを持ってきてくれたりスープを持ってきたり、どんどん追加してくる。食べている間も寄ってくる。本当におばあちゃんである。三人目のおばぁちゃん。紫の三角巾、汚れた紅色のエプロン、腰が曲がっているふくよかな姿勢。マスクと三角巾の間にのぞくその目はいつもいつも、、優しい。
というわけで
食べ終わり帰るころには少し寂しくなるようなお店なのである。この時代にああやってご飯を食べさせてくれるお店は少ない。
お金を払えば、いくらでも美味しいものは食べられる。けど、ああやって笑わせてくれるのも、のんびりさせてくれるのも女将のお店だけだ。だから私達はまた食べにいく。幸せってなんだろう。そんなことを教えてくれる定食屋さんの話でした。今夜はそんな感じです。