どうしようもなく

怖がられている、忌み嫌われている、避けられている、そんな風に思っていたのに、

突然、思いがけない笑顔を見せたり、明らかに緊急性の無いくだらないことを話しかけてきたり、休みの日に私用の携帯電話に電話を掛けてきたりするんだよ。

無邪気であどけない笑顔、スフェーンのように色とりどりに輝く瞳、穏やかで柔らかい声。

どうやら俺が思っていたより、ずっと優しい奴みたいだ。

周りがここぞとばかりにからかったり、恩を着せようとしてありがた迷惑な世話を焼いてきたりするようなときに、あいつだけはただ一言、「大丈夫か?」なんて聞いてくるんだよ。

俺がとてつもなく弱い奴だってことも、

他人との距離の取り方が、未だによく分からないままだってことも、もしかしたら知られてしまったのかもしれない。

…でも、それは全部俺のせいなんかじゃない。

今まで正しい愛情なんて誰からも貰えなかったから、知りようがなかっただけなんだよ、そういう大事なこと全部。

あいつを見てると奇妙にも、兄さん達に会いたくなる。

「ここからさっさと出ていけよ」「顔も見たくない」「一緒にいるとバカがうつるから」なんて言ってくる兄さん達に「会いたい」だなんて、本人達が聞いたら気味悪がられるかもしれないな。

でも俺はもう、そういう「棘のある言葉」にどういう気持ちが隠れているか、自分自身の経験でだいたい分かるようになってしまったんだよな。

「バカ弟」って言いながら本当は自分の方がバカだと思っている奴とか、

「兄」としてのプライドにがんじがらめになってどうしても弟に謝れない奴とか、

本当に大切で大好きな相手にも、その気持ちを素直に伝えられない奴とか、まあ、全部一人の誰かさんのことなんだけど、そういう気持ちに悩まされてる「兄」がいるってことを知ってしまったんだよ。

だからあいつと会った後なんかはいつも、兄さん達の顔が見たくなる。

こんなこと、ちょっと前までは絶対有り得なかったんだけどな。

……あいつに初めて怒られたときのことを、俺はずっと覚えている。

「栄養ドリンクは飯のうちに入らねー、もっと自分の体を大事にしろ」……だとさ。

まずびっくりして、そのあとすぐに嬉しくなった。…頭がおかしいって思うか? だけど仕方ないだろ。

あいつが初めて俺に怒った理由が「俺のため」だってことが、どうしようもなく嬉しかったんだから。

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