Recycle Mafia #2-10 attack 2
餓鬼どもの溜まり場の公園から、トモの家までは車で10分かからない距離だ。
シンゴは、イチの話を聞くために一旦遠回りをしてから、ナチが見張りをしている公園に車を向けることにした。
ステアリングをにぎる手がかすかに震えているのが自分で解る。
少し広い小道に入って車を停車させて、シンゴが言った。
「さ、どういうことか説明してもらおうか」
「ゴメン。でも、俺なりの計算のうちなんだ。」
「予行演習ってかんじかな。いい意味で力が抜けて、良かったんじゃない?」
「まぁそうだけど、急に予定と違う行動は困る!」
「だから、ゴメン。」
「・・・・」
「・・・・」
「あと、あのままの緊張感でカトウたちを相手にしたら、必ず失敗しそうだったし、俺自身、動けるのかっていう心配もあったし、シンゴの動きも見たかった。」
「悪かったな、正直思うように動けなかったよ。」
「でも、最後は良かった。安心したよ!」
「ありがとう・・・あ、なんとなく納得させられたけど、今後は突発な行動は止めてくれよ。」
「解った。」
「さ、あとは餓鬼どもが、どう動くかだな」
「あ、言い忘れたけどもう一つ、アソコで餓鬼どもを襲った理由があるんだ。」
「もしアソコの公園に幹部が1人でもいたら、やらなかった。下っ端だけだから、やったんだけど、あいつらは、絶対今日のことは、カトウ達には報告しない。何でかわかる?」
「解る。だから単車を壊しといた。」
「そう!さすがシンゴだな。あいつらは、鬼面組の名前でボコられてしかも単車も壊されたなんて言ったら、それこそカトウに殺されるからね。」
「訳の解らないうちに、素性の知れない、二人に狙われているっていう恐怖は伝染する。明日、あいつらの中学校では、この伝染が広がる。今日カトウ達を潰して、周りの子分どもが戦意喪失してれば、あいつらは自然と崩壊するよ。」
「なるほど。それで?・・・それだけじゃないだろ?理由は」
イチはややうつむき加減で、なんだかモジモジしているように見えた。
少しして、ややか細い声でしゃべりだした。
「実はさ、コレが終わった後に言おうと思ってたんだけど、俺には、娘がいるんだよね。丁度来年の春に中学にあがるんだ。」
「え!・・・マジで・・」
「だからさ、今の大人って勝手だよな。好きなことやってさ。」
「・・・・うん。」
「俺たちがやろうとしていることは間違っているかもしんないけど、あまりに勝手な大人が増えたせいで、子供たちに無関心すぎるんだよ。だから、近所の子供なんかを見てみぬふりして、悪い事しても怒れない大人が多いんだよね。だから・・・なんていうか、上手く言えないけど、娘をあんなふうにされた親の立場としての怒りと、子供を叱ってやんなきゃ!っていう、大人としての責任感みたいな気持ちが入り乱れてるんだよ。なんかまとまんない話でゴメン。今話すべきじゃなかったな。」
「その気持ちはわかる。俺たちには子供はいないけど、大人としての責任感みたいなのもは、よく解る。」
シンゴ達も初期衝動はただ単に「生意気な餓鬼を潰してやる」程度の物であったが、カトウ達、それと被害者の女子高生達を知っていくうちに、自分達も何故かこのカトウ達と似た物同士のような感覚があった。仕事、恋愛、上手くいかない事を人のせいにして、自分を正当化する。勿論もういい年なので犯罪と解る事は日常ではしないけど、善悪の区別は何時も曖昧な物だ。そんなことを、学んだ気がする。
イチは大人として親としてとても今曖昧なバランスで生きている。それがシンゴには良く理解できたのだ。でも、今は自分達のやるべきことをやるしかないのだ。
シンゴはサッと切り替えるように携帯の時計を見ると、イグニッションキーをまわし、エンジンをかけた。
「さ、コレからが本番だぞ!」
「ナチには公園での事は俺からサラッと言っとく、イチは何も言うなよ。」
「了解」
シンゴの運転するランサーは、葛西橋通りを通っていた。土曜の夕方という事もあり道は混んでいた。そういえば、3人で葛西橋を渡るときには雨が降った跡があった。夕日に反射して道がキラキラと輝いていた。緊張していたのか、今になってそんな景色を思い出した。
目的地である、トモの家の手前のパーキングに到着した。時刻は17時30分。あたりはすでに真っ暗。ある意味、予定通りだ。車の中からナチに電話。
連絡は電話のみ。
イチと交代で、ナチを駐車場に呼び寄せた。
今まで公園で会った事を話した。するとナチは意外な反応
「ふーん。面白いねイチは。」
ナチは何の連絡も無しに、寒空の下公園で待たされたことに怒っていると思ったが、ニコニコしてこう言った。
この陽気さが、場を和ませる。いい意味で力が抜けて行く。
「悪かったな。」
一応イチの分として謝罪しておいた。
「どうだった?奴らに動きあった?」
「まだ何も無い。けど、あそこの家の親らしき夫婦はなにやらデカイ鞄を持って、二人揃ってどっか行ったぞ。もしかして旅行かもな」
「って言う事は・・・あいつらが揃う可能性が高いな」
「うん。じきだね」
「で、その夫婦はど・・・・」
話を遮るバイブが振動した。シンゴの携帯が鳴った。
今日は3人でトバシの携帯を使っていて、3人の誰かからしか電話は掛かってこないから、すぐ相手は解った。
見張り役のイチからなので、緊急だ。すぐに通話ボタンを押した。少し指が震えた。
「来たぞ! 3人だ。やるか?」
「やるぞ」
通話ボタンを切るとすぐに車を離れ、シンゴとナチの二人はトモの家の前に向かった。足音を殺して。
2人は先ずトモの家の陰で身を潜め、イチの動きを見ることにした。これも打ち合わせ通り。
公園から素早く獣の動きで飛び出て、ターゲットに近づくイチ。
公園から見て、トモの家の手前、角の向こうにターゲットを捉えた。
角を曲がる前にターゲットに接触。
正面から、カトウ、マサル、トモだ。遠くからでも解る。道いっぱいに広がり、肩を怒らせて歩いてくる餓鬼。
イチは真ん中のカトウの正面に立ち、いきなりの左のショートフックをカトウの顔面に叩き込んだ。
「んな!」
脇の二人があっけに囚われたのもつかの間、続けざまに右のこぶしをカトウのボディーに叩き込んだ。
カトウはたまらず体をクの字に曲げたが、脇にいた2人の反応も早かった。
イチの首目がけてトモがからみついてくると、マサルがイチの足を目がけてタックルしてくる。
たちまちイチは寝かされる形となったが、そこは寝技が得意なイチ、あっという間に首に絡んだトモの腕を捉えて、腕十字で「ボキっ!!」そのままバックに回り込みチョークでトモを捉えていると、カトウがスタンガンを出しながら吠えた。
「んだ、コ・・・ムグぐ・・」
カトウの口を押さえた黒い影。シンゴ
マサルのマウントを取っている、黒い影
ナチ。
シンゴがカトウの口を抑え、耳元で言った。
「大人しくこっちに来い」
次の瞬間、カトウはシンゴに背負い投げを仕掛けてきた。
が、シンゴはこれに反応し、上手く受身をとると、クロスガードに持っていく。
しかし、ガードを解かれる。シンゴも素早く立つ。
カトウは一筋縄ではいかない。圧倒的に他の連中より強い。さすが柔道が強いだけはある。
「てめえらなんだ。何者だ、コラ」
カトウが言う。
「いいから来い。そこの公園で話そう。ここじゃあ警察が来てみんな捕まるぞ。」
その言葉にカトウもマサルも異常な反応を見せた。
「解った解った。」
と言って素直に着いてきた。
見張りをしていた小さな公園に行くと、またもやカトウが凄んできた。手には先ほどのスタンガンが握られていた。
「お前ら、誰なんだって聞いてんだよ。」
「俺らはスハダクラブ。お前らの敵だよ。」
「そう。こいつがスペード、んで、こいつがダイヤ、んで・・・自己紹介はいーか♪」
ナチは陽気に言う。
「お前らなめてんな」
カトウが凄む。と同時にシンゴが、「タイマンだ」といいながら、カトウにローキックをお見舞いした。
トモとマサルはイチとナチが抑えているので、心置きなくやれる。
しかし、警察が来ては厄介なので、最低でも3分以内で決着をつける必要がある。
「糞が!さっさと殺してやるよ。」
と、どこか落ち着きのない目で睨んできた。どこか喧嘩するのがめんどうくさそうな。
さっきの警察への異常なビビり方といい、今の反応といい、嫌な予感はますます現実みを帯びてきた。
が、もうこうなったらヤルしかない。決着をつけてこいつらの口から懺悔させてやる。
カトウがスタンガンを捨て、先制パンチを出してきた、それをよけたと思ったら、組み付いてきた。
さすが柔道だ。しまったと思った瞬間に投げられたが、ここはしっかり受身を取って、さっきと同じ展開に。しかし今度はクロスガードを解かれる前にカトウの頭を引き寄せ、三角締めの形に入った。
カトウは上から何とか殴ろうとするが、この手も摑まえ、横に流すと本格的に三角締めセット完了。
後は極めるだけだ。カトウは「ウゴッゴごごご」と苦しそうにしかし、獣のような呻きを発する。このまま落とすことにした。
力を入れ続けること数秒、シンゴも必死で締め上げる。しぶといカトウ。がやっとカトウの体から力が抜け、痙攣を始める。
こうして、トモ、マサルの手を前に出し、親指同士を結束バンドで縛った。このやり方は、何かの本で読んだギャングが人を拉致する最新のやり方だ。
カトウにも同じようにすると、正気を取り戻していたので、先ほど捨てていたスタンガンを拾って、カトウの首筋に「バチッ」とやってみた。
即気を失った。
「こんなアブねーモノ使いやがって、預かっておく!」
と言いながら、シンゴは新しいおもちゃでも手に入れたように、スタンガンをポケットの中に仕舞った。
そのまま、気を失ったカトウはトランクに詰め込み、トモとマサルは後部座席でイチと一緒。
シンゴが運転して、ナチが助手席。車を発進させる前にシンゴがトモに言った。
「家の鍵を出せ」
少し渋った顔をしたトモにイチの容赦ないビンタがとんだ。
すると泣きながら、トモは鍵を出した。
「確認だが、誰もいねーな、家には」
「ハイ」
シンゴはこの車の中で少し待っているように言い残すと、すぐさまトモの家に向かった。
シンゴはある程度、いや、相当の覚悟でトモの家に入っていった。
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