家業としての農業から、企業としての組織化を進め、社員が働きやすい環境づくりを整える
馬場園芸 馬場淳さんプロフィール
馬場淳さんは、二戸市浄法寺町で200年以上続く馬場園芸(屋号・三右ヱ門)の9代目。岩手県立農業大学校で農業を学んだ後、地元にUターンして2009年に家業を継いだ。馬場園芸では代々観賞用の菊やお米、お米の苗などを栽培していたが、2013年からは花き栽培に加えて、全国でも珍しい冬に収穫できる「ホワイトアスパラガス」の生産を開始し、全国の飲食店や高級ホテルに販売にも力を入れている。最近では糖度の高い栗かぼちゃの栽培にも注力している。
やり方次第でどんどん伸びる面白さを感じて農業の道へ
馬場さんは三人兄弟の長男として生まれ、幼い頃から家業として農業を営む両親の姿を見て育った。自然と「いずれは後継者として継ぐ」という意識が芽生え、中学・高校に進むにつれて、その意識が強くなったという。
「高校時代に、菊の栽培を数人の同級生に手伝ってもらいました。菊を収穫するときに、選果や計測の作業があるのですが、それぞれに役割を持たせたところ、一人ひとりが一つの仕事に集中できるようになって、作業効率が向上して、ちょっとした工夫で生産性を上げられるんだという手応えを感じました。農業はやり方次第でどんどん伸びるという面白さを感じ、自分で農業をやってみたいと思うようになりました」
馬場園芸は現在5人体制で生産しているが、今でも作業に応じた効率的な方法を取り入れられるようにしている。
冬でも栽培できるホワイトアスパラガスを栽培し始めたのは冬場の仕事を作るため
馬場園芸のホワイトアスパラガスは北半球で最も早い12月から収穫できる。それを可能にしているのは「伏せ込み栽培」である。春から秋にかけて露地圃場で根株を養成し、冬季にハウス内に持ち込み(=伏せ込み)、2~3か月の間で栽培を終了する短期栽培法だ。
厳しい環境の中で育つホワイトアスパラガスは、トウモロコシのように甘く、生で食べられるほど柔らかく、口中に果汁が溢れるほどみずみずしく、飲食店やホテル、デジタル直販サイトを通じての購入者など、全国にファンがいる。
馬場さんはホワイトアスパラガスの栽培を始めた理由を以下の様に語った。
「農業大学校を卒業して20歳で地元に帰ってきたときに感じたのは、地域の活気がなくなっていることでした。二戸市も人口がどんどん減っています。人が離れていく一番の理由は『仕事がない』ことだと思っています。自分たちで何かできないかと考えた時に、企業として安心して働ける場所をつくろうと思いました。具体的には通年働ける場所作りです。当時、私も冬は農業の仕事がなく、アルバイトをしていましたが、農業一本で生計を立てたいと思い、冬場の仕事になる作物を探しました。そこで見つけたのが、冬に収穫できるホワイトアスパラガスでした」
作物を作る上でのこだわりは「味」
馬場さんの話では、この50年間で野菜の栄養が減少しており、例えばニンジンのビタミンAは1/8に減少しているそうだ。化学肥料や農薬に頼って効率を重視した農業の結果、土壌が弱り、野菜の栄養が無くなっている。
「私は何よりも味にこだわっています。自分たちの作ったもので、食べた人の体ができています。どの品目についても、本当に自分が食べたいもの、食べさせたいもの、本質的に体にも良くて結果的に美味しいものを作るようにしています」
馬場さんは、ただ美味しいだけでなく、科学的な観点からも美味しさを追求し、化学肥料や農薬に頼らず、地域内の畜産会社、きのこ農家、米糠を提供してくれる方などをパートナーにして、環境への負荷を減らす方法で肥料づくりに力を入れている。
「この地域は地域資源がたくさんあります。岩手には海も山もあり、畜産もある。堆肥になる有機物の宝庫なので、農家がそれを生かす知識さえあれば、より良いものを作っていけると思います」
営業はゼロから。ライバルが少ないところで品質が良いものを作る
ホワイトアスパラガスは北半球で一番早く出荷できるため、ライバルがほとんどいない。当初はJAを通じて流通させていたが、自分たちで価格を決められないという課題にぶつかった。そこで馬場さんは自ら販路の営業を行った。農業大学校を卒業後、実家に戻ったため、馬場さんには一般企業での就職経験はなく、営業やマーケティングもゼロから独学で学んだそうだ。最初は商談会に出て飛び込み営業を行い、徐々に紹介が増えるようになったという。その営業の中で、ホワイトアスパラガスのポタージュが採用された。
かぼちゃを主力作物にしたのも、こうした営業の中での気づきがあったからである。ポタージュを採用してくれたクライアントから、そのほかの野菜でスープが作れないかということで、たまたま冬の時期に保存していたかぼちゃでポタージュを作った。栗かぼちゃの品種のうち「雪化粧」は長期保存ができるため、2月ごろまでかぼちゃを保存することができる。また、ただ保存するだけでなく、熟成してより甘いかぼちゃになるという。ホワイトアスパラガス同様、冬の時期に国産かぼちゃが出回ることがほぼなく、テスト販売をしていく中で需要に手応えを感じてかぼちゃの生産も拡大していった。
農家としてのこの地域の魅力
馬場さんが農業を営む二戸市浄法寺町は山々に囲まれ、町の中心には清流「安比川」が流れている。山々がもたらしてくれる肥沃な「土」、ミネラル豊富な澄んだ「水」、昼夜の「寒暖差」等が、すべての環境が作物を美味しくしてくれるという。
自然環境的な魅力だけでなく、人柄の魅力も馬場さんは語った。
「うちは新しい作物、お米も農薬を使わない取り組みを行っているので、地域からは変わり者扱いされることもありますが、そんなに足を引っ張る人はおらず、前向きに関わって応援してくれる先輩農家も多いです」
これからチャレンジしたいこと
馬場園芸では、ホワイトアスパラガスに加えて、今後はかぼちゃも科学的な観点から糖度などを証明するなどして差別化を図り、ファンを増やしていきたいと考えているそうだ。
また、家業としての農業から企業としての組織化を進め、社員が働きやすい環境づくりを整えていきたいと思っているとのこと。