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レッドブルの新たなボス:マテシッツからミンツラフへ RBライプツィヒとアルファタウリのこれから

2022年10月22日、レッドブルの創業者の一人であるディートリッヒ・マテシッツが亡くなった。

彼の名前は多くのスポーツへの投資でも知られており、特にサッカーとモータースポーツの世界での影響力は無視できない。生前からマテシッツは自身の後継者を考えており、フランツ・ワツラウィックを飲料事業のCEO、アレクサンダー・キルヒマイヤーをCFO、そしてオリヴァー・ミンツラフを企業プロジェクト・投資部門のCEOに指名していた。今回はこれからのレッドブルのスポーツ投資に関して、最も重要な人物と言えるであろうミンツラフを軸に見ていきたい。


ミンツラフによるサッカー投資の今後

ミンツラフは1975年8月19日生まれで現在47歳。元長距離ランナーで、ハーフマラソンやクロスカントリーの実力者としても知られている。また、2000年から2008年までプーマで勤務し、コンサルタントやマネージャーとしてラルフ・ラングニックや歌手のアンドレア・バーグを担当していた。

2014年にはラングニックとの関係を活かしてレッドブルのサッカー部門でのキャリアをスタートし、同年6月にはRBライプツィヒのCEOに任命された。サッカー畑出身ではないものの、ミンツラフは経営面で着実に評価を上げていった。彼の手腕によってクラブの市場価値は上がり、1部リーグ昇格やCLベスト4進出、さらにクラブ史上初のメジャータイトル獲得となった昨季のDFBポカール優勝にも貢献。彼の仕事ぶりは非常に熱心で、一緒に働いているスタッフがすり減るほどだと言われていた。

ただ、クラブ運営には問題点もあった。ラングニックがレッドブル・グループ全体の役職に異動してからは、後任としてパーダーボルンから招聘したマルクス・クレーシェがSDとしてチーム強化の中心を担っていた。しかし、しばらくするとミンツラフは「クレーシェの負担軽減のため」という名目でクリストファー・ヴィヴェルとフロリアン・ショルツを昇格させ、強化体制の重要なポストに置いたのだった。この人事により権限が縮小されたクレーシェは、クラブに対して不満を持ち契約解除。アイントラハト・フランクフルトへ新天地を求めた。その上で問題だったのは、彼の後任探しに難航したことだ。空席期間は1年を超えた。

その期間ではミンツラフ自身が強化に動き、それをヴィヴェルとショルツが支える体制だった。だがこの体制では、選手獲得に関して監督の意向が反映されていない状況も見られた。今季加入したクサーヴァー・シュラーガーはその代表例で、ドメニコ・テデスコ前監督は彼の獲得を希望しておらず、序列は極めて低かった。

そんな中で、ようやく昨年12月にスポーツ部門のトップとしてマックス・エバールを招聘。この交渉はミンツラフ単独で行われていたようで、クラブ内部でも進捗状況を把握できないほどだったという。続けて今年4月には、SDとしてルーヴェン・シュレーダーを迎えた。

またミンツラフは、ラングニックとの関係も徐々に冷えていった。ラングニックがクラブを去った後、親密な交流を持つことはなかったとミンツラフは認めている(現在は和解)。

こうした影の部分がある一方で、ミンツラフがレッドブル・グループを大きくした功績は確かなもの。マルチクラブオーナーシップの構想を持つチェルシーが引き抜きを狙ったこともあった。結果的にこのオファーは成立せず、チェルシーは部下だったヴィヴェルを連れて行った。ショルツはミンツラフの後を追う形でクラブを去り、フットボールコンサルタントとしてレッドブル本社へ。ミンツラフが退いた後のRBライプツィヒは、マネージングディレクターとしてフロリアン・ホップとヨハン・プレンゲ、そしてエバールの3人が中心となって運営が進められている。

ミンツラフの退団はクラブにとって大きな痛手だが、彼がレッドブル本社のトップに就いたことで、レッドブルによるサッカーへの投資がこれからも継続されることがある程度見込まれるため、個人的にはポジティブに捉えている。しかし、ミンツラフはRBライプツィヒの監査役会の一員としてクラブとの繋がりを保ってはいるものの、彼やマテシッツ、ラングニックという大きなプロジェクトを推進してきた3人が去ったことはやはり将来の懸念点。RBライプツィヒが"普通のクラブ"になってしまう恐れを示す一因にはなり得る。そういった意味では、レッドブル・グループのサッカー部門TDを務めるマリオ・ゴメスの活躍にも期待していきたい。

コスパの悪い2ndチーム、マルコとの関係性

今後の動きに注目という点では、サッカー部門よりもF1部門かもしれない。

現在、レッドブルはF1にレッドブル・レーシング(以下:レッドブル・R)とスクーデリア・アルファタウリ(以下:S・アルファタウリ)の2チームを所有している。そのうち、レッドブル・Rはマテシッツとの中長期的な予算やプロジェクトを組んでいる上に成績面も順調。問題が山積みなのはS・アルファタウリである。

レッドブル・RのセカンドチームであるS・アルファタウリは、昨年コンストラクターズランキングが10チーム中9位と低迷し、今季はさらに悪化している。角田裕毅の素晴らしい走りによって入賞を争う場所にはいるものの、現状マシンのパフォーマンス自体は最下位クラスと言っていい状態。加えて、育成チームという位置づけであるにも関わらず、今年はレッドブルのジュニアドライバーに該当者がいなかったことから、育成外のニック・デ・フリースが角田のチームメイトとなっている。

アルファタウリというチーム名自体も議題に上がっている。アルファタウリはレッドブルのファッションブランドの名前で、そのPR目的として2020年にチーム名がトロロッソからアルファタウリに変更された。しかしながら、アルファタウリのアパレルが販売されているのはレースを回る国のうち3、4ヶ国ほどと限定的。S・アルファタウリは様々な面からコストパフォーマンスの悪さを指摘されている。

そのため、S・アルファタウリは拠点をイタリアからイギリスに移すことや、チーム自体が売却されるかなど、多くの可能性がミンツラフら経営陣と検討された模様。レッドブルのモータースポーツアドバイザーであるヘルムート・マルコも、一時は「株主次第だ」と完全否定しなかったが、 先日のインタビューで「S・アルファタウリは売却されない」と明言している。現時点では、低迷したパフォーマンスを改善する方向性で進められているようだ。長らくチーム代表を務めてきたフランツ・トストの退任に加え、ローラン・メキースとピーター・バイエルの加入内定はその一環であると言えるだろう。

そのマルコとミンツラフとの関係は決して良好ではないという状況が伝えられている。

マルコはマテシッツと古くからの友人で、実のところ彼には正式な肩書きはない。メディアによって、「レッドブルモータースポーツアドバイザー」や「レッドブル首脳」と紹介されることもあれば、F1中継では「Dr.ヘルムート・マルコ」とテロップが出る。表記に揺れがあるのはそのためだ。これまでレッドブルと(マテシッツと)の間に契約書を作ったこともないと言われる彼だが、それでもレッドブルのF1部門で最も大きな力を持つ一人。レッドブルドライバーの振り分けなど重要な決定事項は彼主導で行われ、角田のF1昇格はもちろん、セバスチャン・ベッテルやマックス・フェルスタッペンのレッドブル・R昇格、ダニール・クビアトやピエール・ガスリーのトロロッソ降格を決めたのも基本的にマルコである。

マルコはレッドブルのドライバーに対して厳しく接することでも知られる。当時、トロロッソから史上最年少の19歳でF1デビューを果たしたハイメ・アルグエルスアリは、「期待に応えられないことに対する無力感やフラストレーション。マルコが僕を叱りつける悪夢を今でも見るんだ」とインタビューで語っている(その後、彼はSNS上で発言を釈明。マルコへの感謝を述べた)。

マルコとミンツラフの関係について話を戻すと、マルコはミンツラフのことを「2回会ったよ。彼は洞察力を持ってるね」と評価しつつも、「ディディ(マテシッツの愛称)には明確なビジョンがあった。もうそれが見えないんだ」とも話しており、ミンツラフとはマテシッツほどの信頼関係を築けていないことを示唆している。

また、今年3月にミンツラフに関して問われたマルコは、「彼はマンチェスターの後で忙しいと思うよ」と発言。これはCLでRBライプツィヒがマンチェスター・シティに0-7で大敗したことを皮肉ったものであるが、後に「ドイツメディアに誇張された」とも述べている。

そんなマルコも4月に80歳となった。契約書がないこともあって、「幸せじゃなければ、いつでも辞められるんだ」と語る彼の後継者についても注目が集まっている。その中には昨年F1を引退し、レッドブル・Rで4度のワールドチャンピオンを獲得したベッテルを推す声も一部では挙がっている。

鍵を握るタイ人オーナー

レッドブルは創業当初、オーストリア人のディートリッヒ・マテシッツとタイ人のチャリアオ・ユーウィッタヤーがそれぞれ49%の株式を取得しており、残りの2%はチャリアオの息子であるチャルーム・ユーウィッタヤーが保有していた。だが、2012年にチャリアオが亡くなり、彼の株式をチャルームが受け継いだことで、現在ユーウィッタヤー家は過半数にあたる51%の株式を保有している。今回、マテシッツの株式は息子のマーク・マテシッツが受け継いでいるが、当然その保有率は49%で過半数には達していない。そのため、マテシッツが指名したミンツラフをはじめとする後継者は、ユーウィッタヤー家からの承認を得て実現している。

レッドブル・Rは昨年、パワーユニット(PU)パートナーであるホンダが表向きは撤退し、2026年から始まる新たなPU規則に備えてポルシェとの提携が濃厚とされていた。マテシッツ自身もポルシェとの提携を望んでいたとされているが、土壇場でこの交渉は決裂。理由は、ポルシェの株式買収により立場が弱くなる恐れのあったチーム代表のクリスチャン・ホーナーとマルコが、ユーウィッタヤー家にかけあったからと一部では報じられている。実際に昨年のF1オーストリアGPでは、チャルームがレッドブル・リンクに姿を見せた様子が写真に収められていた。結局、レッドブルは2026年からフォードと提携することに。このようなことから、重要な意思決定の場面でユーウィッタヤー家の存在が大きな影響力を持つことがわかる。ミンツラフはこの一件からも、マルコの存在を良く思っていないと言われている。

レッドブルのスポーツ投資に対する近い将来の懸念について、「チャルーム後」の時代に目を向けていきたい。

現在72歳のチャルームも、その後継者問題がやがて浮上すると考えられる。その時、マーク・マテシッツやチャルーム・ユーウィッタヤーのように、すんなりと息子に引き継ぐことができない事情がある。

チャルームの息子であるウォラユット・ユーウィッタヤーは、2012年にタイで自動車事故を起こし、警官を死亡させたために過失致死とひき逃げの疑いで逮捕されている。この事件について、検察当局が訴追を取り下げたことで大きな問題となった。

チャルームにはウォラユットを含む3人の子供がいるとされるが、もしユーウィッタヤー家内で「お家騒動」が起これば、レッドブルのスポーツ投資に影響が及ぶことは十分考えられる。

これからのレッドブルの運営やスポーツへの投資は、ミンツラフら後継者たちのビジョンやユーウィッタヤー家との関係に大きく左右されることになるかもしれない。

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