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地質観察旅行記:城ヶ島
2024年6月2日に三浦半島活断層調査会が主催する地形観察会に参加し、城ヶ島を観察したので、ここにその記録を残します。
なお、本記事の内容に誤りがある場合、それは先生の説明を理解できていない私の責任であり、会の見解ではないことにご注意ください
城ヶ島の地質
城ヶ島は新第三紀の地層である三浦層群(南部)に属し、以下の図のように三崎層と初声(はつせ)層に分けることができます。
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三崎層の年代は1,200万年前から440万年前、中期中新世の終わり頃から後期中新世になります。
また、初声(はつせ)層の年代は440万年前から400万年前、前期鮮新世になります。
また、6万年前から2万年前、三崎層の上に火山灰が堆積した地層は、三崎砂礫層に分類されています。
城ヶ島の地質図 を見ると、初声層はスコリアと軽石の火砕質砂岩(火山灰)、三崎層はスコリア質凝灰岩と泥岩の互層、三崎砂礫層および小原台砂礫層は砂と火山灰の地層であることが分かります。
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(こげ茶:火砕質砂岩、紫orオレンジor濃い緑or青:砂岩泥岩、斜線入り:砂と火山灰)
産総研地質調査総合センター,地質図Navi
三崎層のスコリア質凝灰岩はタービダイト、もしくは降下火砕堆積物とされています。
三崎層はプレート沈み込みに伴う付加体だという説が有力です。
三崎層のスコリアの化学組成は伊豆・小笠原弧の玄武岩と類似しているのがその根拠の1つです。
丹沢や伊豆などで見られる付加体は、伊豆・小笠原弧で堆積した地層がフィリピン海プレートに乗って移動し、フィリピン海プレートの沈み込みによって本州にくっついたものです。
伊豆・小笠原弧の地層と同じスコリアを持つ三崎層も、同じようにしてできた付加体であると考えられます。
また、三崎層の泥岩は「半遠洋性泥岩」という遠い海域の深海(水深2000から3000メートル)に堆積した黒色泥岩です。
三崎層の泥岩が半遠洋性泥岩であることも、三浦層がプレートに乗って本州まで移動した遠い海の地層に由来することを示しています。
なお、半遠洋性泥岩については、以下の知恵袋で詳細について解説されていたのでご参照ください。
一方、初声層は、付加体を覆うように海溝陸側斜面において堆積した砂や泥の地層であるという説が有力です。
灘ヶ崎の凝灰岩
城ヶ島バス停から東へ少し歩き、低い塀を乗り越えると灘ヶ崎に到着します。
以前は、バス停近くに楫の三郎山があり、タフォニのある地層を観察できたそうですが、現在は工事により山そのものが崩されてなくなってしまいました。
灘ヶ崎では南方向に80度ほど傾いた白と黒の互層が観察できます。
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これらはタービダイトの地層で、白色の地層はシルト質泥岩、黒色の地層はスコリア質砂礫岩です。よって、この地層は三崎層になります。
地質の項でも説明したように、この黒い砂礫は火山灰の凝灰岩であり、スコリアも多く含まれます。
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タービダイトは海底で砂礫や泥が堆積してできますが、重い砂や礫が先に沈み、泥が後から堆積するので、地層が下から上にかけて粗い砂礫の粒子→細かい泥の粒子の順になっています。
1回の堆積イベントごとにこれを繰り返すので、地層の粒子は「粗い→細かい→粗い→細かい→粗い→細かい」という構造になっています。
この構造のことを級化層理と呼びます。
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この場所では断層が多く確認できました。正断層も逆断層もありました。
断層については火炎構造の地層のところで改めて解説します。
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観光橋
京急ホテルの近くには観光橋と呼ばれる赤い橋があります。
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ここでも白と黒の互層が確認できます。
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白色のシルト質泥岩は細かく、黒色のスコリア質砂礫岩は粗いことが分かります。
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観光橋ではスランプ構造が有名ですが、この日は観察できませんでした。
スランプ構造とは、堆積した砂礫が固まる前に地震などで曲がりくねった地層です。
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また、観光橋のカンザシゴカイ類の住跡を見ると、関東大震災で1.4メートル、元禄地震で2.2メートルの隆起があったことが確認できるそうです。
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城ヶ島南西部の火炎構造
城ヶ島南西部に到着すると、多くのトンビが人の食べ物を狙って、私達の上空を旋回していました。
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ここでも白と黒の互層が多く確認できます。灘ヶ崎と同様に、ここの地層も三崎層です。
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以下の写真のように、近づいてみると、地層の粒子の粗さの違いがよく分かります。
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そんな地層の中でも以下の写真のような火炎構造と呼ばれる地層があります。
白色の地層が炎が揺らめいているような模様に見えることから、そう呼ばれています。
この模様は、堆積した泥が固まる前に堆積物が上に重なり、上方向へ攪乱されてできたものです。
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火炎構造の地層では正断層が確認できます。正断層は陸が左右に引っ張られてズレた地層です。
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また、逆断層も観察できます。逆断層は陸が左右から押されてズレた地層です。
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比較してみると、正断層は地層がずれ落ちたように見えるのに対して、逆断層は地層が這い上がったように見えます。
城ヶ島ではこれ以外にも断層を様々な場所で確認できますが、逆断層が多いようです。
三崎層は付加体なので、プレートが沈み込む際に左右から圧縮されたことで逆断層が多くできたと思われます。
城ヶ島南西部の入り江
城ヶ島南西部は、左右の陸側と海側がその間より高くなっています。
また、断層の割れ目が入り江になっています。
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この歪みは、南北方向から強い力で押されたことで地層が曲がってできたものです。
逆断層が多いのと同じ理由が当てはまり、プレートの沈み込みの際に左右から押されたと考えられます。
他にも、城ヶ島では地層が押されて曲がった褶曲構造が多く観察できます。
これらの地層の歪み、褶曲構造や逆断層が、三崎層は付加体であることを証明しています。
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城ヶ島南部の海食洞
城ヶ島南部では小さな洞窟があります。これは波で削られてできた海食洞です。
震災前は陸地が今よりも低く、この洞窟のある場所は海岸に接しており、波の浸食を受けて海食洞を作ったと思われます。
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洞窟内を見るとシルト質の泥岩が確認できます。
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海食洞の隣には大きな断層があります。
この断層は対岸の三崎から三浦海岸まで続く大規模な断層です。この断層から凝灰岩鍵層が波打ち際まで続いています。
以前はこの断層が三崎層と初声層の境界だと言われていました。
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城ヶ島南部の三崎層と初声層の境界
海食洞から100メートルほど東へ進むと三崎層と初声層の境界があります。
境界の正確な位置については私の理解が曖昧なので、以下の説明は誤っている可能性があり、ご注意ください。
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三崎層と初声層の境界付近において、三崎層側の地層には直径1センチの火山豆石が確認できます。
この火山豆石は海面付近の火口のマグマ水蒸気爆発でできたものです。
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境界付近の地層や火山豆石については以下が参考になります。
また、境界の初声層側には小高い山がありました。
初声層は付加体の三崎層と陸地の海溝に砂や泥が堆積してできた地層です。
そのため、褶曲はあまり見られず、細かい縞模様の葉理を多く観察できます。
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地層の表面には葉理の模様ができています。
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馬の背洞門
城ヶ島の南端には、波で削られて穴の空いた海食洞があります。これは馬の背洞門と呼ばれています。
昔は馬の背洞門の穴の上側の岩を渡れたそうですが、今は風化して崩れる危険があるので通行禁止になっています。
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また、関東大震災以前には、この穴の下部は海中にあり、穴の中を船で通れました。
大震災により1.6メートル隆起したことで穴全体が地上に出たので通れなくなりました。
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この背洞門も初声層であり、砂や泥の堆積岩です。
見落としてしまったので観察できなかったのですが、馬の背洞門の階段近くでは斜交葉理と呼ばれる斜めの模様があるそうです。
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赤羽根海岸のローム層
馬の背洞門から木の茂る小道を通ると城ヶ島の赤羽根海岸を展望できます。赤羽根海岸の崖は波で削られてできた海食岸です。
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灰色の初声層の上に茶色の関東ローム層とオレンジ色の東京軽石層が見えます。
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初声層、三崎砂礫層、関東ローム層の様子は、以下の写真がより分かりやすいです。
https://nh.kanagawa-museum.jp/kenkyu/kanagawa_chishitsu/chisou/miura/jougashima/jougashima02.html
安坊崎の三崎層と初声層の境界
城ヶ島の北側の安坊崎でも三崎層と初声層の境界を確認できます。
南から北にかけて、垂直に三崎層と初声層の境界が見えます。地層が強い力で押されて垂直に回転したと思われます。
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ここでも三崎層と初声層の境界近くでは、三崎層の中に火山豆石を確認できます。
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火炎構造の地層で逆断層を見ましたが、ここでも多くの逆断層を確認できました。
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道中では以下のような大きな断層も確認できました。
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城ヶ島北東部・亀の子島の逆転地層
城ヶ島北東部では地層の上下が入れ替わった逆転地層を観察できます。
今回は見に行けませんでしたが、亀の子島には渦巻き模様の葉理、コンボルートラミナがあり、模様の上下から地層の逆転を確認できるそうです。
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終わりに
今回の記事は長くなりましたが、それでも城ヶ島の地層について紹介できなかったり、説明不足な点が多くあります。
この様々な地層を観察できる城ヶ島が、多くの学校や企業の教育や研修に使われるのも納得です。
今回の記事で城ヶ島の地層に興味を持った方は、専門家(例えば三浦半島活断層調査会)の案内による観察会に参加し、詳しい説明を聞かれることをお勧めします。
参考資料
地質リーフレットたんけんシリーズ 城ヶ島たんけんマップ
日曜の地学20 神奈川の自然をたずねて
図録 みどころ沢山!かながわの大地