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博物館・美術館の鑑賞備忘録:「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見」

概要

  • 開催場所:麻布台ヒルズ ギャラリー

  • 開催時期:2024年11月1日(金) 〜 2025年2月2日(日)

感想

ポケモン工芸展は、有名な工芸の大家から新進気鋭の若手作家まで、いずれも超絶技巧を持つ工芸家達がポケモンをテーマにした作品を制作した工芸展です。

個人的に一番好きな作品
緋銅をふんだんに使用したミュウツーの彫金

大人気ゲームのポケットモンスターをテーマにしたことで、現代工芸に興味のない多くの人々にも現代工芸の魅力を伝えることができる有意義な展覧会だと思いました

図録も販売されているのでご参照ください。


ポケモン工芸展に出展している作家さん達

ポケモン工芸展に参加している作家さんを以下に紹介したいと思います。
ただし私は織物と現代アートには詳しくない為(もっとも他の分野の美術も詳しくはないですが、織物と現代アートよりはほんの少しだけ知っています)、申し訳ありませんが、織物と現代アートの作家さんは省略させていただきます。


坪島悠貴

坪島氏は金属製の変形する根付を製作しています。
根付という江戸時代の遊び心あふれる分野に、「変形する」という更なる遊び心が加算された粋な一品です。

3D CADによる設計と金属の素材という現代的な技術と根付という江戸時代から続く伝統文化が融合した温故知新を体現したような作品です。


満田晴穂

満田氏は生物を模した可動の金属工芸、自在置物を製作しています。

生物の構造を生物学者のように研究して制作された自在置物は、まるで生きている本物の生物のようです。

自在置物は江戸時代から続く伝統的なの金属工芸の一分野です。


池田晃将

池田氏は微細で現代的な螺鈿細工を施した漆工芸品を製作しています。

数字や幾何学模様は流転するデジタルや機械文明を連想させ、一方で漆の黒は静かな悠久の安寧を連想させ、その2つの対極のイメージが1つの作品に内包されています。

既に大人気の作家さんで、作品は私には手の出ない価格になっていますが、展覧会などで作品が展示されている時はなるべく見に行くようにしています。


桑田卓郎

桑田氏は色彩豊かで独特な造形の陶芸作品を製作しています。

土を何層にも盛って表現された彩りの豊かさは人間国宝の松井康生氏の作品を連想させ、形状の自由さは唯一無二の面白さを持ちます。


植葉香澄

植葉氏は亀甲紋や七宝繋ぎなどの伝統模様を、複雑な形状の陶器一面に描いた作品を制作しています。

古典的な陶芸作品は単純な形状の皿や壺に複雑な亀甲紋や七宝繋ぎの模様が描かれていますが、氏の作品は複雑な形状の動物に複雑な模様が描かれているので実に目立ちます。

その存在感のある作品は置く場所を選びますが、寂しい空間を一気に賑やかなものにしてくれる明るさを持っています。


福田亨

福田氏は天然の木を組み合わせる木象嵌と呼ばれる技法を用いた作品を製作している彫刻家です。

素材の色だけを用いて多彩な表現を実現する技法にはいつも驚かされます。
彩りの豊かな作品は、長く見ていると疲れてしまったりしますが、落ち着いた木の色だけを用いた氏の作品はいつまでも見ていられます


吉田泰一郎

吉田氏は金属制の花や植物で作られた身体を持つ動物の彫金作品を制作されています。

無機物の金属で有機物の花や動物を表現しています。
氏の作品を見ると、静的で冷たい印象のある金属は、実は躍動的で熱い生命力に溢れた素材であると認識を改めさせてくれます。

吉田氏の作品で私が特に気に入ったのは緋銅を巧みに使用しているところでした。
緋銅は銅を水中で熱するなどの特殊な加工で赤く染める技法です。江戸時代には盛んでしたが、現代ではあまり使わない技法です。
氏の作品は、温かみのある色合いを持つ緋銅を使うことで、生命感を強く感じさせるものになっていると私は思いました。


田口義明

田口氏は螺鈿細工や蒔絵で自然や花鳥風月を連想させる漆作品を制作しています。

技法としては先に紹介した池田氏と同じになりますが、テーマや表現しているものは全くの別ものだと私は考えています。
池田氏の作品が私達の認識できないデジタルな世界の美を表現しているとすれば、田口氏の作品は私達が慣れ親しんでいる自然の美を表現しています。


桂盛仁

桂氏は紺綬褒章や旭日小綬章を受賞している人間国宝の彫金作家です。
このようなご高齢の大物がポケモンをテーマにした作品を作ったことに私は驚きを感じました。

実際、氏はポケモンのゲームをプレイしたことがなく、制作依頼が来てから勉強されたそうです。
ポケモンのことに詳しくないはずなのに、制作されたブラッキーは私の抱くブラッキーのイメージを満遍なく再現しており、素晴らしいと思いました


葉山有樹

葉山氏はとにかく美しいの一言に尽きる陶芸作品を制作している陶芸家です。
陶器を埋め尽くす精密で美麗な動植物の模様は、イスラムの陶器も連想させます。

一目瞭然という言葉がありますが、氏の作品の素晴らしさは言葉で説明されるより、ともかく一目見れば即座に理解できることでしょう。


今井完眞

今井氏は陶器で生物を再現している陶芸家です。
生命感のある作品は、本当に生きている動物の時間が一時停止しているような錯覚を覚えます。

先ほどに紹介した自在置物が生物の仕組みや生き方を再現しているとすれば、こちらの陶芸作品は生物の見た目や存在感を再現していると言えます。


桝本佳子

桝本氏は、器の模様が実体を持って外にはみ出しているように見える作品を制作している信楽焼の陶芸家です。
実用性は皆無ですが、見た目の面白さは抜群です。

私は氏の作品を勝手に「ぶんぶく茶釜」と読んでいます。
陶芸の持つ大らかさや愉快さを存分に発揮した作品だと思っています。


林茂樹

林氏は未来の科学的な世界を連想させる、球体関節人形のような陶芸作品を制作しています。
私はこの方のことを人形作家だと認識していましたが、正式には陶芸家になります。

子供の顔は無表情ですが、レトロSF的なデザインな身体と組み合わさると、感情豊かな作品に思えるから不思議です。


池本一三

池本氏は、エナメル絵付けというガラスに絵を描く技法を使用するガラス工芸作家です。

氏がガラスに描く絵は、独特の顔をした人物が、陶器の形状に合わせた歪みのある空間にいるのを描いています。
作品の多くは遠近感をわざとおかしくしているので、作品を見ていると迷路に入り込んだような気分になります。

エナメル絵付けについては以下をご参照ください。