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地質観察旅行記:吉田・小鹿野・両神エリア1
2025年2月17日に埼玉県の小鹿野へ行き、ようばけ、八幡沢の滝、藤六の海底地すべり跡、取方の大露頭、白砂公園を観察してきたので、ここにその記録を残します。
吉田・小鹿野・両神エリアの地質
吉田・小鹿野・両神エリアの属する秩父盆地は1700万年前から1400万年前の新生代新第三紀の地層で、5000メートル以上の厚さを持ちます。
秩父盆地の地層は、付加体の地層を土台にして、その上に堆積した砂岩、泥岩、礫岩の互層です。
ここで秩父盆地の地質図を見てみます。
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秩父盆地の周辺を見ると、灰色の泥岩、緑色の玄武岩、青色の石灰岩が見られます。これは付加体の地層です。
そして、秩父盆地には薄緑色の堆積岩が見られます。これは古秩父湾に堆積した泥や砂の地層です。
秩父盆地の主な地層は、古い順で、彦久保層群、小鹿野町層群、秩父町層群、横瀬町層群の4つです。
他には子ノ神層、奈倉層があります。
秩父盆地の歴史
秩父盆地の地層の歴史は以下のようになります。
まず、まだ日本列島が存在しない頃、2億9000万年前から5900万年前、プレートに乗って移動してきた堆積物が大陸に衝突し、付加体ができました。
秩父帯や四万十帯と呼ばれる付加体です。
今から1700万年前、新生代新第三紀に、大陸の一部が分離を始めます。この時に分離した2つの島が後に日本列島になります。
この時期に秩父盆地が海に沈み、古秩父湾になりました。
古秩父湾では海中で泥、砂、礫が堆積し、現在の秩父盆地の地層を作りました。
1600万年前には古秩父湾は深海になり、地震などで泥や砂が堆積し、分厚いタービダイトを作りました。
1550万年前には古秩父湾は水深20メートルから200メートルの浅い海になり、多くの海洋生物が暮らしました。
そのため、この時期の地層からは多くの化石が発見されます。
1500万年前には大陸から分離した2つの島は、現在の日本列島と同じ位置にまで移動します。
その後に長い時間をかけて2つの島の間に火山岩と堆積岩が積もって1つに繋がり、現在の日本列島になります。
その後、今から2万年前、新生代新第四紀後半に秩父盆地が隆起して陸地になりました。
その後、現在の秩父市でも見られる河川段丘が作られました。
秩父盆地の歴史については以下の記事が詳しいのでご参照ください。
おがの化石館
まずは秩父駅からバスに乗って泉田まで行きます。10分ほど歩くとおがの化石館に到着します。
おがの化石館の入口には、秩父盆地層群富田層で採れた石灰質コンクリーションが飾られています。
これは地中において、炭酸カルシウムが砂や泥を固めてできた天然のコンクリートです。
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おがの化石館には色々と素晴らしい化石が展示されており、ようばけで見つかった化石も見ることができます。
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ようばけ
「ようばけ」は、国の天然記念物に指定されている、高さ100メートル、幅400メートルの崖です。
日が暮れても、この崖だけは太陽が当たって輝いていたことから、太陽の当たる崖という意味で「ようばけ」と呼ばれるようになりました。
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ようばけの上部、粗い縞模様の黒っぽい砂岩泥岩互層は、秩父町層群下部の「鷺ノ巣層」です。
ようばけの下部、灰色の泥質砂岩の地層は「奈倉層」です。
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下部は、泥質砂岩の地層である「奈倉層」
「ようばけ」は1550万年前の古秩父湾が水深20メートルから200メートルまで浅くなった頃に堆積した地層で、ウミガメ、サメの歯、貝、カニ、ウニの化石が多く発見されます。
その地層が隆起して地上に出た後に、赤平川に浸食されて崖になりました。
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ようばけでの化石採りの様子は以下の動画で紹介されいます。
なお、「ようばけ」の隣にはハサミのように見える露頭「はさみばけ」もあります。
川岸にあって現在も浸食が進んでいる「ようばけ」に比べて、隆起して川面から遠ざかった「はさみばけ」は浸食が止まっています。
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八幡沢の滝
ようばけの近くにある曹洞宗奈倉山大徳院の隣にある坂道を下ると八幡沢に到着します。
草木に覆われてよく見えませんが、泥岩砂岩互層があります。
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道順については以下のサイトを参照しました。
八幡沢の滝へ近づく為には側溝に下りないといけないのですが、この日は側溝に水量があって小川になっていたので降りるのを断念しました。
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私は八幡沢の滝には近づきませんでしたが、以下のサイトでは間近にて観察した様子を紹介されているのでご参照ください。
無名滝
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八幡沢の滝から少し歩くと赤平川に架かる奈倉橋下の川岸に到着します。
ここには砂岩泥岩互層があります。
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また川岸には小さな滝「無名滝」があります。
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この奈倉橋下の砂岩泥岩互層を撮影した動画をアップロードしたのでご参照ください。
この地層は古秩父湾が深海だった1600万年前のものです。そのため、化石などを見つけるのは難しいかもしれません。
ここの地層は、ようばけに比べると知名度が低く、あまりネットでも紹介されていないので、やや多めに写真を載せたいと思います。
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互層の1つ1つについて、粗い砂岩の上に細かい泥岩が重なり、砂岩と泥岩の境界が明確になっている典型的な級化構造になっています
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私はよく観察できていませんでしたが、砂岩層の下には流痕もあるそうです。
藤六の海底地すべり跡
藤六の海底地すべり跡は、奈倉橋の近くの赤平川の川岸にある露頭です。
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藤六の海底地すべり跡までの道は分かりにくいと思います。
目的地へたどり着くには、藪に覆われた細い道を歩き、急坂をロープにつかまりながら降りないといけません。
そこで、他の人の参考になればと思い、立て看板から目的地までの道のりを動画で公開しました。
(私は熊除けに「ホー、ホー」と奇声を発しながら歩いており、恥ずかしいので音声は削除しています。)
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藤六の海底地すべり跡までの道は以下の記事で詳しく図説されています。
私は以下の記事の地図を印刷して、現地でそれを見ながら目的地にまで行きました。
目的地に到着すると目の前に露頭があり、砂岩泥岩互層が傾いているのが分かります。そして、奥の方に特に大きく折れ曲がっている地層があります。
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この地層のように、平行に重なった地層の間に曲がった部分が挟みこまれている構造を「スランプ褶曲」と呼びます。
海底に堆積した地層が固まる前に地震で地すべりを起こし、折り重なったり、断ち切れたりすると、このようなスランプ褶曲ができます。
この場所の地層も、1700万年前に堆積した地層が固まりきる前、1600万年前の地震で隆起した際に地すべりを起こしたと思われます。
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他の場所でも多少のスランプ構造を確認できます。
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取方の大露頭
藤六の海底地すべり跡から赤平川上流に向かって20分ほど歩くと、吉田取方総合運動公園の近くにある「取方の大露頭」に到着します。
約800メートルもの幅がある巨大な露頭です。
この露頭も天然記念物に指定されています。
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ここでも1600万年前のタービダイトの地層を観察できます。
私は見つけることができなかったのですが、スランプ褶曲をこの地層でも確認できるそうです。
露頭の一部の動画をアップロードしたのでご参照ください。
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また、案内看板の近くにおいて、右に傾いた厚い地層の上に水平な薄い地層が堆積している場所があります。
下側の傾いた地層は1600万年前の地層で、上側の水平な地層は約2万年前の地層です。
この地層は、古秩父湾が傾いて隆起して地上に出て、その後に赤平川などに浸食して削られ、その上に段丘堆積物が水平に堆積することでできた「傾斜不整合」です。
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この場所の1600万年前の地層は右斜めに傾いて見えるのに、最初に紹介した数枚の写真では、同じ1600万年前の地層は水平に見えていました。
このように同じ地層なのに傾きが違って見えるのは、崖の向きが異なるからです。図示すると以下のようになります。
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白砂公園の白沙(しらす)砂岩
取方の大露頭から更に50分歩くと秩父市吉田にある白砂公園の遊歩道入口に到着します。
石の標識近くにある鳥居をくぐると、すぐに遊歩道に入ることができます。
園内の岩山は白い花崗岩質砂岩でできています。
石英、長石、雲母を主成分とした粗くて硬い花崗岩質砂岩で、白沙(しらす)砂岩と呼ばれています。
古秩父湾ができた当初に堆積した地層です。
公園の近くでは「タフォニ」と呼ばれる風化した砂岩を観察できます
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園内の岩山の頂からの眺めはとても良いです。
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岩山を登った際の動画をアップロードしたのでご参照ください。
神社仏閣
秩父には秩父札所やそれ以外の神社仏閣が多くあります。
私は歩きながら、目についた寺や神社を幾つか参拝しました。
秩父駅でバスを乗り間違えて慌てて降りた場所で柞祖霊社を見つけ、これも何かの縁とお参りしました。
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八幡沢の滝へ行く前に、最寄りの曹洞宗奈倉山大徳院で読経しました。
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取方の大露頭へ行く途中で札所33番、菊水寺の前を通過したので読経しました。
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龍勢会館
白砂公園の近くには龍勢会館があり、そこでは地域の特産品を販売しています。
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旅行では現地にお金を落とすのも大事だと考え、漬物や蜂蜜、そして現地ならではのお土産を購入しました。
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めんまの居る所?
Googleマップで道を調べていたところ、「めんまの居る所」という謎のポイントがありました。
上で紹介した「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない(通称、あの花)」コラボのミネラルウォーターに描かれている薄墨色の髪をした女の子の名前が「めんま」です。
気になりつつ、そのポイントの前を通過すると、小屋の中にアニメ「となりのトトロ」のトトロやアニメ「あの花」の登場人物、めんまの人形が置いてありました。
「なるほど、確かにめんまの居る所だ」と思いました。
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「あの花」は秩父を舞台にした人気アニメで、秩父では様々な形で「あの花」とコラボしており、例えばバスの案内音声は「秩父橋」でめんまの声になっていました。
平成25年の椋神社例大祭「龍勢祭」において、この めんま人形が椋神社へ奉納されたようです。
「あの花」の劇中では、椋神社例大祭「龍勢祭」をモデルにした手作りロケットが重要な役割を果たします。その縁でファンが神社にこの人形を寄付したのでしょう。
その時の祭りの様子を紹介した記事があったのでご参照ください。
補足:お勧めのスケジュール
以下は今回の観察行程のスケジュールになります。他の方が現地を同様に観察する際の参考になれば幸いです。
08:32 秩父駅着
東京から秩父へ普通電車で行くのならば、最速でこの時間になるはずです
9:19(本来は 08:37 のバスに乗る予定だった) バス停「秩父駅」発
西武観光バス「<G2> 西武秩父駅(市立病・小鹿野)栗尾行」
9:43(本来は 09:01 に到着予定だった) バス停「泉田」着
徒歩20分で移動
10:00 おがの化石館着
見学25分
10:25 おがの化石館発
徒歩5分で移動
10:30 ようばけ着
見学30分
11:00 ようばけ発
徒歩10分
11:10 八幡沢の滝着
見学30分
11:40 八幡沢の滝発
徒歩10分
11:50 藤六の海底地すべり跡着
見学30分
12:20 藤六の海底地すべり跡発
徒歩20分
12:40 取方の大露頭着
見学30分
13:10 取方の大露頭発
徒歩50分
14:00 白砂公園着
見学30分
14:30 白砂公園発
徒歩20分
14:20 龍勢会館着
バスが来る時間まで休憩
15:28(休日には14:30頃) バス停「龍勢会館」発
西武観光バス「<D> 吉田元気(皆野・秩父橋)西武秩父行」
16:07 バス停「秩父駅」着
東京方面に帰るのならば「皆野駅」で降りた方が早い
2025年5月中旬まで橋の工事のため、皆野駅では停車しないのでご注意ください
私は平日に行ったので休日とバスの時刻表が異なるのでご注意ください。
また、私は秩父駅において、間違えて反対方向のバスに乗るという失敗をしてしまい、予定より遅いバスに乗っています。
休日の「龍勢会館」発バスの時刻は平日よりも1時間早い14:30頃なので、休日に予定通りのバスに乗って約1時間早く行動開始すれば、帰りは丁度バスが来る時間に龍勢会館まで到着できるはずです。
また、「藤六の海底地すべり跡」から「取方の大露頭」や「白砂公園」までの移動が一番大変なので、「取方の大露頭」や「白砂公園」の見学をせずに、代わりに長瀞やその他のジオポイントへ移動するのもいいかもしれません。
順調にいけば昼前には「藤六の海底地すべり跡」の見学を終えているはずなので、他のジオポイントを見学する時間は十分にあります。