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スポークスパーソンが知っておきたいクライシス・コミュニケーションにおけるメディア対応の基本

前回は、クライシスコミュニケーションにおけるスポークス・パーソンの役割について、良いスポークスパーソンの条件や危機管理広報担当者が備えることなどについてお伝えしました。

前回のnote↓


今回は、信頼と信用を確立するためにクライシス・コミュニケーションに必要な要素について、お伝えしたいと思います。

メディアの評価基準

現代は、記者会見がノーカットで全編見れるようになったので、各メディアがどんな質問をしていて、そしてそれらの解答から、どんな記事にしたか研究ができるようになりました。些細な言い回しのミスやノンバーバルと言われる表情や身振り手振り、服装に至るまでの”見た目”まで、実にさまざまな落ち度に対して記事化されるケースも珍しくありません。緊急時のメディア対応はほとんどの組織が万全の状態で望めませんので、メディアは以下の評価を基準として取材に来ていることを念頭におきましょう。

・企業の基本方針、基本姿勢、スタンス
・情報公開の透明性、正確性、倫理性、信頼性
・スポークスパーソンの態度の誠実性、信頼性、人間性

最終的に、メディアは会見の内容やスポークスパーソンの対応力、人間性などを総合的に判断します。ネガティブな情報ほど記事化しやすいので、あえて同じような質問や感情を逆撫でするような言葉を投げかけて来ますが、的を得ない質問などにイライラするなどの感情が言葉や態度に出てしまうと、バッシングされるリスクが高まるので注意が必要です。

スポークスパーソンの伝える技術

特に社会部のメディア記者は、推測や憶測により仮説を立てた上で、データや詳細の細部にこだわるという特性があります。そのためどのような視点から伝えれば、疑問や誤解を払拭できるか、あるいは歪曲された記事が出るリスクを最小限に抑えることができるかを考えて、説明する必要があります。
そして、誤解を与える推測記事を防ぐために、メディアの質問に対し、まず「結論」を話し、続いてその理由をできる限り短い言葉で簡潔に答えるようにしましょう。

専門用語や略語は最小限にする:専門用語はコミュニケーションの妨げになり、傲慢な印象を与えることがあります。また略語の使用は一般聴衆を遠ざけ、好感度を低下させる可能性があります。専門用語や略語を使用する必要がある場合は、その定義を明確にしましょう。

一般の人でも理解しやすいレベルにメッセージを心がける:シンプルで短い文章を使用し、専門的な語彙は避けましょう。

否定的な主張を繰り返さない:どんなメッセージでも、繰り返せばそのインパクトは大きくなります。否定的な主張を繰り返した場合、それは正式なメッセージの一部となります。

肯定的な言葉や中立的な言葉を使う:記者会見の場で、効果的なコミュニケーションを実現するためには、質問してきたメディアに対して、メッセージが明確であったかどうか、理解されたかどうかを尋ね、耳を傾ける姿勢を示すことが重要です。

決まり文句やその場しのぎのコメントなどは避ける:人生には保証がないなど、経験を矮小化するような発言は、スポークスパーソンの信頼性を低下させます。

信頼を確立するために必要な5つの要素

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の調査によると、コミュニケーションを通じて信頼と信用を確立するには、5つの基本的な要素があることが分かっています。特に緊急時のコミュニケーションでは、組織が公開する文章をはじめとするすべてのメッセージに、これらの要素を取り入れることができます。
 
①共感と思いやり:被害があったステークホルダーへの気遣いや心配を示します。そうすることで、聴衆はメッセージに耳を傾けてくれる可能性が高まります。

②能力・専門性 :類似の状況に対処した経験があれば、能力に対する認識を高めることができます。

③誠実さとオープンさ:十分な情報を開示し、もし知らないことがあれば、その理由を説明しましょう。

④コミットメントと献身 :危機対応における組織のスタンスや目標を述べましょう。復旧プロセスの課題など、進捗状況を報告するフォローアップを定期的に行い、献身的な姿勢を示します。ただし、実現できないことを約束してはダメです。状況の限界を説明し対応を軌道に乗せるために全力を尽くしていることを表明しましょう。

⑤説明責任を果たす  :約束を守り、下した決断に責任を持つことは、対応期間中、組織に対する社会の信頼と信用を維持するために不可欠です。


記者会見で、スポークスパーソンは、話を聞き出すプロの記者の方たちに対応する局面に立たされます。コミュニケーション担当や広報担当者は、記者会見開催までのプロセスのリハーサルと、模擬記者会見などのトレーニングを行うことが必要です。スポークスパーソンが公の場で話す前に、有事に想定される質問に対する回答を入念にリハーサルし、確認しておきましょう。

次回は、危機管理に強いスポークスパーソンになるために必要な「見た目(ノンバーバル情報)」で配慮が必要な、記者会見で気をつけたい所作や服装などについてお伝えします。

【書いた人】
大杉 春子/コミュニケーション戦略アドバイザー

民間企業・地方自治体・省庁などのパートナーとして、PR戦略の策定から広報物の制作監修まで支援。コミュニケーション戦略における「攻め」と「守り」の両軸から経営広報の施策をサポート。2020年に専門家らとともに、日本リスクコミュニケーション協会を設立し、リスク管理から危機管理広報までを網羅した、リスクコミュニケーション人材の育成を展開する。

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