1つの瓶と店員の話【後編】
瓶を買って3か月後、あのおじさんがお店に怒鳴りながらやって来ました。
「あの瓶を買ってから、私は社長を引退することになり、前より金が使えなくなった!私の幸せは金だったのに!どうしてくれるんだ!」
すると、店員はまたニコニコしながら答えました。
「それ、本当にそうですか?」
「何だと?!」
「まぁまぁ、落ち着いてください。あともう3ヶ月もすれば、あなたが残しておきたかった幸せが見えますよ。」
店員は微笑みを崩さずに言いました。おじさんは何だかその笑みに押されてしまい、またしぶしぶと帰っていきました。
その3ヶ月後、ふたたびおじさんがやって来ました。今度は申し訳なさそうにケーキの箱を持ってきました。
おじさんは優しい声で言いました。
「あの後、前よりは金が使えなくなったが、時間が出来てね。趣味を作ったんだよ。そうしたら前より楽しくて。自分の部屋で好きなものを好きなときに味わえるのが私の幸せだったんだ。」
店員はにっこりと笑いました。おじさんもにっこりと笑いました。
「でも働くのも好きだからアルバイトを探しているんだ。そうやって趣味に余生を使うことにしたよ。」
店員はおじさんが持ってきてくれたケーキを食べながら言いました。
「どうですか、この店で働きませんか?こんなに美味しいケーキを作れる器用なあなたならきっとすぐにいい店員になれると思いますよ。」
おじさんは目を丸くしましたが、すぐによろしくと微笑みました。
おじさんはそういえば、と店員に声をかけました。
「あんたの絶対残しておきたい幸せって何なんだい?」
店員はまたニコニコしながら答えました。
「甘くて美味しいものを食べられることですよ。」
終わり
以上、らずちょこでした。
※この物語はフィクションです。
ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
ではまた次回。