愛されたい彼女と愛したい彼の話【前編】
育美は腕と足が少しだけ動かしづらい。
日常生活でそんなに困ることないのだけど、重いものを持ちすぎてはいけないし、走りすぎてもいけない。不便だった。
育美がこうなったのは、火事が起きたとき偶然一緒にいた、幼馴染みの蓮を庇ったからだった。
その事で自分を責めて、蓮は育美と一緒に住んで生活の手助けをしている。
育美は何度も世話はいらない、と言おうとしたが、ずっと好きだった蓮がいてくれる生活を手放せなかった。
でも、蓮が一緒にいてくれるのはただの罪悪感で、自分を愛してくれている訳じゃないということも気づいていた。
離れるのも、一緒にいるのも育美は辛かった。
今日も無理をして笑いながら、朝食を作っている蓮に話しかける。
「おはようー。」
蓮もその声を聞いて笑って振り向く。
「おはよう育美。」
育美はテレビをつけてニュースを見る。昨晩起きた火事のことを取り上げていた。
「警察は、連続放火魔の可能性があると見て、調査をーー。」
育美はチャンネルを変えた。火事のニュースは蓮に辛そうな顔をさせるし、育美自身も見たいものではなかった。
蓮が朝食の乗ったプレートを持ってきて、ニュースの天気予報を見た。
「今日も降るのかー、最近雨多いな。」
「だね、電車大変でしょ。」
「まぁね。」
2人ともいただきます、と言ってから食べ始めた。口数は少ないが、はたから見たら同棲カップルのよくある風景に見えた。
育美は、この朝をいつまで続けられるだろう、いや、いつまで続けていいのだろうと何度も自問自答している。その答えはいつも同じ。
「今すぐやめろ。」
自分自身に言うのに、自分自身が言い返す。
「せめて今日だけは。」
その繰り返しだった。いっそのこと蓮が自分を嫌ってくれないかと思うが、実際に嫌われたらと思うとしり込みする。
今日も「せめて今日だけは。」と自分自身に言い返して朝を過ごす。
続く
以上、らずちょこでした。
※この物語はフィクションです。
ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
ではまた次回。