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ヒトゴト 1

 「というわけだから、対応頼むわ。」

 感染対策がなされた社内は、机の両端に薄い透明の板が挟まっている。板の横から話しかけてきた先輩の顔が疲れていた。

 開発部と聞くと、プログラミングだけ行っているようなイメージかもしれないが、実際は違う。

 うちの会社だけかもしれないけど、仕様設計、要件定義、デザインを開発部が担う。

 主に営業部から社内ツールの仕様を変えてほしいとか、こんなツールほしいなどの依頼が来るのでそれをヒアリングする。そして相手が本当に望むものを掘り起こしていくのだ。

 「営業部のグループチャット、招待お願いします。」

 「あー、すまん。」

 ピコンと通知音がヘッドホンから聞こえた。チャットツールのグループに招待されたのだ。

 「お疲れ様です、開発部の大宮澤です。」

 と挨拶から始める質問には、3時間経っても誰も返答しない。

 「この依頼出してきたのどなたですか?」

 「前波さん。」

 「個人チャで送るか~。」

 「あの人今取引先とMTGだってよ。」

 「あー、じゃあ待つしかないのかー。」

 「メシ行く?」

 「またラーメンですか。」

 「いや、今日は牛丼食いてぇ。」

 「じゃ、『ますや』行きます?」

 「おー。」

 首からぶら下げた社員証をシャツのポケットに隠しながら立ち上がった。

 さて、今日は何時に帰れるかな?


 続く

 以上、らずちょこでした。

 ※この物語はフィクションです。

 ここまで読んでくださった皆様に感謝を。

 ではまた次回。



 


 

 

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