2人の男の話
- 負けず嫌いたちの咆哮
「いいか。勝ちにこだわれ。」
白髪混じりの1人の男がもう1人の男に向けてそう言いはなった。真夏の気温と興奮によって流れている汗もそのままに、続けた。
「最近では負けたけど完全燃焼したから悔いはない、という奴が増えてきたな。」
「はい。」
「俺に言わせればあんなもんはただの負けたときの言い訳だ。負けるということは色んなものを失うのだ。プライドやここまでの道のり、そして何よりそのときの勝利を奪う。」
「はい。」
「それに、その言葉はまるで次のチャンスがあるような言い方だ。よく考えてみろ、次が来る保証なんてどこにもないんだ。それを分かってるやつならそんなこと思いもしないだろう。」
「だからこそ、俺は負けるといつまでたっても悔しい。」
「それでいい、究極の負けず嫌いでないと。」
もう1人の男は帽子を脱いで汗をぬぐってかぶり直した。
「俺は勝ちますよ、それ以外見えてないんですから。」
白髪混じりの男はニヤリと野心的な意味を浮かべた。
「いい顔をするじゃないか、その調子だ。」
帽子の男もニヤリと笑った。
「俺は、必ず皆とそしてあなたとも優勝を掴むんです。完全燃焼するのなんて当たり前じゃないですか。俺が欲しいのはそんなことじゃない。勝ちにしか興味ないんですよ。」
ようやく汗をぬぐった、白髪混じりの男は満足そうだった。
「相手もそう思っているだろう、だが絶対に負けるな。」
帽子の男も汗をぬぐった。
「はい、監督。」
白髪混じりの男は最後にこういった。
「行ってこい。」
帽子を深くかぶり直して、こみ上がる笑みも抑えずそのままグラウンドへ出た。
ここは甲子園。今日は最後の試合の日。夏の暑さはまだ止まない。
帽子の少年は仲間と共に並び、観客に挨拶をした。
「1番、ピッチャー…」
彼の名前が、甲子園中に響く。まもなく、負けず嫌いたちの闘いが始まる。
ーーー全ての負けず嫌いたちに捧ぐ。
※この物語はフィクションです。
以上、らずちょこでした。
ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
ではまた次回。