愛されたい彼女と愛したい彼の話【中編】
今日は月に1度の育美の怪我の定期検診だった。2人はいつもの病院に足を運んだ。
正直に言うと蓮には来てほしくなかったが、意地でも着いていくと言うので毎回しぶしぶ一緒に来ている。
待合室で待つこと数分、医者から呼ばれて2人で部屋に向かう。
いつも担当してくれている医者の横に見慣れない看護師の女性がいた。見た感じ育美たちと同世代だった。
「はい、いつもの通り重いものは持たないようにね。走るのも控えてください。」
育美は医者のいつもの言葉を聞きながら、ずっと看護師の方を見ていた。正確には看護師の後ろにある棚のガラスを見ていた。
そこには、自分には見せたことのない表情の蓮がいた。じっと看護師を見つめているけれど、どこか焦点が合ってない。
彼は恋に落ちたんだと、蓮よりも先に育美が気づいてしまった。
「ありがとうございました。」
育美が検診を終えた医者にそういうと、
「お大事に。」
と彼女が優しく笑う。その言葉もその笑顔も今の育美には憎らしかった。
それから数ヶ月、あの病院に行くと蓮は無意識にあの女性を探すようになった。その姿を育美が辛そうな顔をして見ていることも気づかずに。
彼と暮らした数年間、こんなことは起きなかった。こんなに辛いことは起きなかった。
きっと心のどこかで、自分に遠慮して恋はしないと、永遠に自分の面倒をしたいと決めていたのだろう。
「気づきたくなかったよ。」
蓮の寝顔を見ながら、育美は毎日泣いていた。
蓮は、育美の目が少し腫れていることに、もう気づけなくなっていた。
続く
以上、らずちょこでした。
※この物語はフィクションです。
ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
ではまた次回。
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