ジワリ、しみじみ来る美味さ。今、東京で一番の注目店! 鮨 海界
元三つ星鮨職人の東京での新たなる挑戦!これこそRoppongi Sea World!
鮨 海界の大将、西崎さんと最初にお目にかかったのは北海道は札幌でした。三ツ星を獲得した某鮨店で、雇われ職人ながら店主に代わって事実上の一番手職人を勤められていました。
某鮨店、以前はすすきのにある筆者定宿の目の前にお店があったので、個人的に使い勝手も良かったんですね。
三ツ星獲得後、某鮨店は札幌駅近くの新築ビルに移転します。移転後の店も訪問してみました。凄く綺麗で品のあるお店で、サービスもフレンドリー、居心地も良かったのですが、物凄く大箱に変貌していて、10名以上座れるカウンターが2つと6名の個室が2つ。コレだけの席数を回してクオリティを維持するには、技量のある職人さんやキッチンの料理人がたくさん居ないと無理。ちょっと嫌な予感がしたのでした。
程無くして西崎さんは某鮨店から姿を消します。
その西崎さんが東京は六本木にて店を出したという話が聞こえて来ました。溜池から近いじゃありませんか。コレもご縁。開店からしばらくして落ち着いただろう頃に、初めて訪問してみました。昨年3月のことです。それ以来、筆者はこの店に通い続けています。
内装は品位高く、凛とした雰囲気です。天井とかディテールを良く見るとすっごくお金掛かっている造りです。方向性は対照的ではあるのですが京都の祇園 鮨 忠保に匹敵する位、お金掛かってると思います。(なんとなく移転前の某鮨店をちょっとだけ彷彿とさせるカウンターの形ですね)
大将の西崎祐樹さん。西崎さんは某鮨店が大箱化し、職人として従前よりお客さんにクオリティコントロール含め目が届きにくくなった状態を良しとせず、自分の目が全て行き届く環境を求め、それも勝負するなら鮨の最激戦区である東京でと決断し、長年住み慣れた故郷北海道を飛び出したのです。西崎さんは鮨 海界を開くにあたって、札幌時代の味、仕込み方を全て捨て、一から自分の味を創り直す、まさに背水の陣で臨んだのでした。筆者としてはこの覚悟と漢気溢れた挑戦を応援しない訳には参りません。某鮨店はその後、星を全て失った事も触れておきましょう。
開店からまもなく2年を迎える鮨 海界。誰が最初に言ったか、巷ではRoppongi Sea Worldと呼ぶ人達もいます。『海界=Sea World』 上手い事言いますね。海界の店名の由来は古代日本に言い伝えられた海の神の世界と人の世界の境界線、『うなさか』から来ているのですが、西崎さんが生み出す海の幸をとことんまで活かした世界は、それこそRoppongi Sea Worldに相応しいものだと思います。これからこの世界を皆様にご紹介致します。
ここから先は2019年8月18日の訪問を中心に過去複数回訪問時の画像を訪問時系列関係なしに挿入していますので、実際の量から品数多めになっています。当然の事ながらメニューは季節物です。
最初は九絵のお造り。温度管理抜群です。添えられた塩は昆布塩。昆布塩無しでも十分味があり、滋味が溢れます。
お造りは鮃の昆布締だったり真子鰈だったり…。
真子鰈
鮃の昆布締
蛸の頭と蒸鮑。蛸は本当に味が濃くてビックリ。蛸以外は水と昆布しか使っていないそうです。この日の蒸鮑は蝦夷鮑を使用。殻付きで蒸されているそうです。殻を外して仕込んだ方が雑味が少なくなるんじゃないかなと思いました。
鰹。皮目を炙った物に、大蒜醤油と卵の黄身で作ったソースをかけ、上に石蓴と分葱を振りかけています。
余ったソースに酢飯玉を落として余すことなく戴きます。(リクエストベース)
喜知次(キンキ)の焼き物。添えてあるのは葉山葵の茎と、唐墨のウイスキー漬。熱々の焼物を戴きます。脂がジワ〜。唐墨がこの脂とマリアージュ、葉山葵で味覚をリセットし、個別の美味さを再確認。熱いものは熱く、冷たいものは冷たくが最高ですね。(筆者の個人的主観ですが、喜智次と喉黒は生や半生より、ちゃんと焼いた方が美味いと思います)
噴火湾産のセイコ(香箱蟹)。 噴火湾では禁漁期が設定されていないため、この時期でも頂くことが可能です。殻から取った出汁にとろみをつけたスープを絡めて戴きます。
赤海鼠と海老、海蘊の酢の物。筆者は赤海鼠大好きです。昔は食べられなかったんですが、今は大好物。コリコリとした歯触りから滲み出す旨味。海老は歯応えの変化に貢献しています。
蛤のスープ。水と蛤だけしか使っていません。そこに擦った酢橘の皮を少々。物凄く濃厚です。
以下の写真の通り、このスープに身と石蓴を入れた酒肴の形でコースの一番最初に出してくる事も以前にはあったのですが、全体の組み立てを考慮し、前菜の最後の方で出すように変化してきました。これはコレで完成された一品だと思いますが、食事全体を通じた味わいのバランスを取るために、敢えてそれを壊すという考え方には非常に柔軟性を感じます。
鮨 海界の酒肴は秋から冬にかけて、特に充実します。
秋には丹波の松茸、冬には虎河豚の白子が。
丹波の松茸
鱈の白子の茶碗蒸 焼き松茸載せ。こりゃ、贅沢な使い方だわ。
丹波の松茸に鱈の白子と秋鱧
メーター級はある虎河豚の白子。
隣にある酢橘や柚子と比べても、その驚愕の大きさが判るでしょう。
虎河豚の白子焼 鱈の白子とぽん酢のダブルソース
さぁ、握りです。Roppongi Sea Worldもココからが本番。普通の鮨屋じゃ普段なかなか出てこないネタも織り交ぜながら、愉しませてくれます。
鮨 海界を語るに酢飯の旨さに触れない訳には参りません。こちらでは赤酢と米酢を使い分けていらっしゃいますが、米は長野県野沢温泉村産の物を使用しています。実はこの周辺地域、北信濃 (野沢温泉村、木島平村、栄村、飯山市) は知る人ぞ知る、米の美味しい地域なのです。
お米といえば新潟県魚沼産コシヒカリですが、新潟県魚沼と長野県北信濃は山を隔てて水源や地質が類似しているのです。両方とも豪雪地帯、同じ山系から供給される清浄な水、お米が美味しくない訳がありません。魚沼産コシヒカリはかつてその偽物やブレンドによる水増しが多い事でも知られていましたが、北信濃地方のお米は魚沼産コシヒカリとの極めて高い食味類似性から、偽物やブレンドに使われる事が多かったのです。さらに2005年以降、新潟産のコシヒカリはいもち病に強い改良型のコシヒカリILに、ほぼ全て代わってしまいました。食味にも微妙な変化があり、2017年の食味ランキングでは最高評価の特Aから陥落してしまい、大きな話題となりました。北信濃産のコシヒカリはオリジナルを保っている所が多く、その水源と地質の類似性、近年における農家の研鑽、そして数多くの食味評価から、最も美味しいお米の取れる地域の一つとして、今注目を浴びているのです。
胡椒鯛。鯛のようで鯛じゃない。寝かせているのですがそれでも良い歯応えがあります。明石の活締め鯛ほどの超高級魚扱いはされない、鮨屋であまり見かけない魚ですが、けっして負けてない旨味を感じます。
横縞鰆。ネットリとした味わい。先程の胡椒鯛の歯応えから一転。口の中のありとあらゆる感覚を使い倒して愉しんで貰おうとする意図を感じます。酢飯も赤酢に変わっています。
晩秋には本柳葉魚の握りまで出てきます。1年で本当に短い期間しかありつくことができません。2週間もないと思います。柳葉魚を(外を炙ってありますが) 生で食べるなんて、都内ではまず見かけません。
この日(8/18)の鮪です。お盆明けと台風で豊洲に物が入ってこないことを想定し、盆前に多めに仕入れ、毎日ケアして寝かせていたそうです。ですので盆休み期間中も西崎さんは毎日店に来ていたそうです。頭が下がります。
そして大事な温度調整…。
鮪漬(柵漬け) 。
西崎さんの煮切りは醤油の味を主張させ過ぎない、淡い感じのものです。
中とろ。海界では大とろは滅多に出しません。この日の中とろは身の柔らかさ、脂の回り方どちらも筆者好みでした。
毎回ではありませんが、日によっては剥がし、鎌下、砂擦、中落等の違いも愉しませてくれます。
小鰭 (新子と小鰭の中間ぐらいの大きさを二枚付) 本当に締め方と酢飯の酸味がマリアージュしているんですよ。
新子の季節は三枚付と四枚付での味覚の変化も愉しませてくれます。
名物(?)毛蟹のチョモランマ 雲丹ソース掛け。毎回必ず出てくるのですが、元々はスペシャリテにする予定は無かったんだそうです。開店直後に取材に来られたメディアの方がこれに喰いつき、あたかもスペシャリテのように取り上げられてしまったからだそうです。たしかにフォトジェニックではありますが(笑)
従前は以下の写真の通り、平皿に持って供されていましたが、崩れやすく食べにくかったため、最初から崩して混ぜる前提の方が良いのではというお話をさせていただき、今回の形になりました。実際に混ぜた事でマリアージュが一層深くなり、美味しさ倍増。
鯵。酢飯は冷たく、身は常温に近いくらいが身の脂を感じると共に、全体が引き締まります。
粒貝。飾り包丁の隙間にちょっとだけ分葱を忍ばせている事、判りますか?
雲丹です。紫雲丹と蝦夷馬糞雲丹の食べ比べ。個人的にはココに赤雲丹が加われば雲丹の食べ比べとしては余興でも無い限り、十分だと思います。ブランド雲丹を前面に押し出さない所も好感度大。
紫雲丹。コレまた個人的には、上質の紫雲丹こそが最上の雲丹だと確信しています。単に甘いだけでなく、味があるんですね。赤雲丹のカスタードっぽい味わいも素晴らしいですが、本当に最上の紫雲丹が持つ奥行きには敵わない。
蝦夷馬糞雲丹。癖のない甘さという意味では蝦夷馬糞雲丹は雲丹の魅力を気付かせてくれる物と言えるでしょう。筆者は昔は雲丹が食べられなかったのです。蝦夷馬糞雲丹を皮切りに、雲丹の美味しさを理解出来るようになりました。
穴子。上に乗っているのは山椒です。詰めはあっさり目。
コレがあると嬉しい干瓢巻。
右と左で酢飯を使い分けている事に気づかれましたか?
魚のエスプレッソといっても良いくらい濃いお椀。単にドロッと濃いのでは無く、味は濃厚、口当たりはサラッと、後味は爽やか。魚の脂を浮かせて熱々を保つのは札幌ラーメンのスープの上にラードを浮かせるスタイルに着想を得たもの。そしてアクセントに山椒を使う事で爽やかさを出しています。
このお椀は唯一無二。
玉子。甘さ控えめの大人な味です。
いつも至福の3時間。訪問毎、常に進化や工夫を感じる事もそうなのですが、他の色んな鮨屋を食べ歩いて美味しかったね、と感じている中で海界をまた訪問すると、やっぱりココ美味いわ…。とジワリ、そしてしみじみ感じる、そんなお鮨屋さんなんですね。しかも握りは毎回いつもと違う何かが必ずある。誰もが食べて美味いと簡単に判る高級ネタ握りのオンパレードではなく、新しい発見と仕事をいつも感じる。そこに派手さはそれほど感じないのですが、例えば先日の胡椒鯛や横縞鰆だったり、はたまた縞鰹の様な知る人ぞ知る魚を出してきたりする、玄人好みのお店と言えるでしょう。
鮨Loverなら、この店の素晴らしさを絶対に理解してくれると思います。
この日はお盆明け直後、しかも台風が日本列島を直撃した後で、漁もお休み、市場にもモノが全く無い中で、これだけ仕上げてきました。お盆休み中もネタの管理と手当のために毎日お店に来ていたそうです。この真摯な姿勢。鮨 海界、疑い無く東京で一番の注目すべきお店です。筆者は西崎さんにこの店 鮨 海界で、もう一度三ツ星を獲ってもらいたい。獲らせたい。そう強く願っています。そしてそれは西崎さんなら可能であると確信しています。(了)
鮨 海界
東京都港区六本木7-9-6
営業時間:
①18:00-20:00
②20:30-25:00 (LO 23:30)
2回転目は20:30以降23:30の間、自由な入店時間で予約可能
月曜定休
Tel: 03-5413-4075
公式ウェブサイト: https://www.sushikaikai.com
予約は以下Webサービスにて
https://www.omakase-japan.jp/stores/98628
店主: 西崎祐樹