冬休みの読書感想文『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』
こんにちは、菜々河です。
もう長らく将棋も配信もやっていないため、将棋系Vtuberを名乗ることが難しくなって来ました。
このまま「百合作品レビューブロガー」にジョブチェンジする日も近そうです。
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前回の読書感想文が多くの反響を頂き、有難いことにtwitterフォロワー数およそ2万5千人の西遊棋実行委員会に紹介されてしまう始末。
この一件をきっかけに、新鋭プロ棋士の横山四段と漫画や小説を貸し借りする仲に。色々とおすすめの作品を教えてもらってホクホクしてたのですが…
横「次の読書感想文も楽しみにしてますね!」
菜「(´▽`)…!?」
横山四段曰く「三段リーグ最終日直前に菜々河さんのやが君レビューを読んだら四間飛車のインスピレーションが湧いてきて昇段できたので次も是非」とのこと。
…………
どうやら僕が百合作品レビューを書いたら横山四段が勝つらしい。そういうことなら第二回も書かなきゃ。
ともかく、私の文章を楽しみにしてくれる方が居るのは有難いこと。
配信活動は難しいですが、こういった形で何かしらを提供していきたいですね。
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今回紹介する作品
『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』は、みかみてれん氏による日本のライトノベル作品。2020年からダッシュエックス文庫(集英社)より刊行。略称は「わたなれ」。イラストは竹嶋えく氏が担当。(Wikipediaより引用)
今回紹介する作品はライトノベルです。2022年1月時点で4巻まで出版されており、2020年5月から連載開始したコミカライズ版も現在3巻を数えています。
分類はガールズラブコメディ(GL)、学園、ハーレム(?)。
作品概要
公式HPの作品紹介はこちらから。キャラクター紹介と併せてお読みください。
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主人公の甘織れな子はゲームが趣味の高校一年生。
中学生時代にぼっちを経験し将来に危機感を覚えた結果、努力を重ね高校デビューに成功。
プロのモデルをやっているクラスメートの王塚真唯と仲良くなり、彼女を中心とするグループに所属することが叶います。
しかし「根が陰キャ」な彼女はキラキラした周囲と合わせる日々に次第に疲弊。
〈相槌ミスらないように気をつけた。めまぐるしく変わるテンポ良い会話に置いていかれないように集中した。必死に笑顔を作った。〉(1巻プロローグ)
そしてれな子は遂に校舎の屋上に逃避し、思い詰めていた彼女を真唯が発見。
れな子が飛び降りようとしていると誤解した真唯が彼女を助けようと全速力で駆け寄った結果、二人とも屋上から落下する所から物語は始まります。
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なんやかんやあって助かり、れな子が「大勢の輪に入って人と話すのが苦手」で屋上に逃避していたことを告白すると、完璧を絵に描いたような存在である真唯も自らの苦悩をれな子に打ち明けます。
後日。真唯の独白を優しく受け止めたれな子に対し、真唯は
れな子のことを好きになった、と告白します。
「れな子と付き合いたい真唯」と「真唯とは友達でいたいれな子」の押し引きを中心にストーリーは展開していきます。
この先二人が、そして周囲の登場人物達の関係性がどう変化していくのか。
まだストーリーは完結していません。是非今からでも書籍を手に取って読んでいただけたら幸いです。
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構成について
現在の最新刊(4巻)まで読むと、この作品の構成がハッキリしてきます。
れな子と真唯のグループは2人の他に琴紗月、瀬名紫陽花、小柳香穂の3人が居ます。
1巻ではれな子と真唯の関係の始まりが描かれ、そして2巻ではれな子と紗月、3巻では紫陽花と、4巻では香穂と…とそれぞれの登場人物とのやり取り、関係の変化が描かれています。
(4巻でメンバー全員がメインのストーリーを一通り巡ったので、5巻以降どのようにストーリーが展開されていくのか非常に楽しみです)
そして、この物語の主要登場人物はれな子視点であることを抜きにしても全員魅力に溢れています。
なんでも完璧にこなす真唯、努力家の紗月、優しい紫陽花、快活な香穂。
側から見たら欠点なんて無いような彼女達にも苦悩があることをれな子は少しずつ知っていきます。
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感想
正直に申し上げると、読み始める前の私はライトノベルという分野に抵抗がありました。
食わず嫌いという訳ではなく、中学生時代に何冊か読んでみたものの肌に合わず、以来敬遠してきた感じです。
ですが、この作品は複数の方から薦められて読んでみた結果、とても楽しく読ませてもらいました。
楽しく読めた理由は幾つかありますが、まずみかみてれん氏の文章が軽快でとても読み易かったです。文学的な側面もあったように思います。
3巻で主人公のれな子とヒロインの一人、紫陽花が卓球をするシーンがあるのですが、
〈「紫陽花さんこそ、なんでそんなに強情なの!?」
パコン。
「何万円もするんだよ!?」
パコン。
「わかってますけど!(中略)」
〜〜(略)〜〜
「私は」
紫陽花さんはピンポン玉を手のひらに握ったまま、うつむく。
「楽しいことだけ、与えてあげたい」
〜〜(略)〜〜
「紫陽花さん相手だからに決まってるでしょうが!」
わたしがピンポン玉を打ち込む。紫陽花さんがラケットを立てて受け止めようとする。ピンポン玉は弾かれて、あらぬ方向に飛んでいった。〉
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…このシーンは11ページにも及ぶので殆ど端折りましたが、言い合いの流れだけでなく主張が正しいか実は暴論であるかを卓球でこっそり表現してたりしてます。
他にも、みかみ氏の文章は風景でさらっと心情を描写したりするシーンを多く含んでいて、読み返す度に気付きがありそうです。
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読み易かった理由として次に、主人公のれな子が非常に感情移入しやすいキャラをしていること、感情の描写がとても細かいことが大きいと感じました。
れな子は非常に自己肯定感の低い人物です。
中学生時代に友人の誘いを断り、以降ハブにされ交友関係を失い、ゲームに逃避してぼっちの中学生時代を過ごしたという経験から、自らを卑下する表現が散見されます。
小説の主人公に全く魅力が無い…というケースは殆ど無く、当然れな子も魅力に溢れたキャラです。
〈わたしはけっこう努力した。見た目を整え、話し方を変えて、姿勢を正して、笑顔を身につけた。(中略)知り合いのいない地元から離れた共学の高校を受けて、人生再スタートを目指した。合格した。だばだば泣いた。〉(1巻プロローグ)
これだけ努力できる時点でスペックは相当です。表現の仕方を間違えばハイスペック主人公が無双してモテまくるありふれた作品になってもおかしく無いように思います。
しかし、れな子は小さなことですぐ悩む。自分の発言が間違いだったのではないかといちいち気にしてベッドの中で反省会をする。ゲームをしている時間が何より好き。
この「小物感」が常にあるから、読み手にも「うんうん、その気持ち分かる」と共感(或いは感情移入)させて読ませることが出来ているのでは無いかと感じました。
誰もが一度は経験したことがあるような失敗や不安にいちいち躓く彼女の姿は今まさに中高生の方々だけでなく、散々失敗して無難な振る舞いを会得してしまった大人にも、こういった時期があったことを想起させてくれる表現で描かれています。
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メッセージ性
本作品のテーマは大きく2つあると感じました。
ひとつ目は「人それぞれに苦悩があって、それを受け止めてくれる人が居て救われる」ということ。
客観的な視点で見たらこの作品の登場人物は超人の集まりです。全員顔が良くて性格が良くて勉強もスポーツも出来るらしい。
しかし、誰しも苦悩や過去に受けた傷、コンプレックスを抱えて生きているということを一人一人と関わることでれな子は知って行きます。
真唯の場合は幼少期から親の都合で自らも仕事をしながら育ってきたこと、求められる振る舞いに応え続けなければならなかったこと。(真唯の悩みは一巻のプロローグで明かされますが、他のキャラの苦悩は話が進むにつれ明かされるので、今回はネタバレ防止で伏せます)
そしてれな子は中学生の時の経験から極端に「人に嫌われること」を恐れて発言・行動しています。
〈もし本当に、誰からも嫌われない方法があるとしたら、それはひとつだけ。
『普通』になることだ。
好きなものも一緒、嫌いなものも一緒。なにもかもみんなと一緒になれば、周りから叩かれることはなくなる。(中略)
そのために、外ではゲーム好きって言わないようにした。FPSにドハマリしている女子高生は、普通じゃないから。〉(4巻第3章)
ここに本作が百合作品である必然性が隠されています。
自己肯定感の低さから来る「自分では真唯と釣り合わない」という感情の他に、「女の子同士で付き合う」という普通じゃ無いこともれな子は潜在的に恐れています。故に、れな子は真唯の告白を拒みます。
ここで2つめのテーマ「普通じゃ無いことは決して悪では無い」というメッセージに辿り着きます。
様々な経験を経て、れな子は自らの価値観、行動基準を打ち破り最終的にひとつの答えを出します。
嫌われることに極度に怯えていた彼女は、どのように生まれ変わって行くのでしょうか。
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最後に
最初、この作品のレビューを書くことを物凄く躊躇いました。
ラノベ、百合、ハーレム、どれを取ってもかなり人を選びます。受け入れられない人には受け入れられない作品だと思います。
私も偏見が無いとは言い切れない状態で読み始めました。そして、良い意味で裏切られた。
なので、「とんでもないタイトルの、とんでもないテーマの作品のレビュー書いてやがるな」って鼻白んだ人にこそ、この作品を読んで欲しいと思い、このnoteを投稿するに至りました。
偉そうなことを言いますが、偏見を打ち破られる経験は最高です。自分の知らない世界の風が吹き込んで来たような感覚を覚えます。
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さて、この作品を読んだ人に「自分をわたなれの登場人物に例えるなら誰?」と問うたら、殆どの人がれな子の名前を挙げるのではないかなと思います。
れな子のようにモテるかどうかはともかく、殆どの人がそれなりの劣等感や人に嫌われることへの恐怖心、優れた人々に対する羨望のような感情を抱えて生きていると思うからです。
かく言う私もそうです。年収が高い人は羨ましいし、アンチコメントをもらったら悲しいし、将棋が強い人への憧憬の念はいつまで経っても褪せません。
何か突出した存在でないと社会でも配信者としても輝くことは難しいと分かりつつ、結局色々なモノに怯えてコソコソと普通の人間を目指して生きています。
いや、生きているつもりでした。
そこそこの学校に通い、そこそこ部活動を頑張り、そこそこの大学に入って「普通の人間」に上手く擬態していたつもりの自分でしたが、2ヶ月前に退学という選択を採りました。
正直、「ちょっと変わってる」みたいな特徴として捉える余地のある「普通じゃない」はいくらでも長所になり得ると思ってます。が、自分の場合…単なる能力不足・努力不足が招いた結果だったので結構精神的にキツかったです。「普通」の擬態すらも出来ずにドロップアウトしました。
そんな自分にとって、一度は中学で孤立したものの、努力で高校から返り咲いたれな子の姿は目指すべき姿そのものです。
れな子が地元から離れた高校を志したように、幸い私も新天地に拠点を移しました。
この先、この地で生きて行くために必要な努力を始めるべきなんだと、私はこの作品からそう諭された気分です。
まずは何から頑張ろう。簿記とTOEICかな…