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白猫

彼は、白い雌猫が好きだった。
まっしろな、青い目の猫を飼っていた。
最高級のキャットフードを用意し、
デザートの鮪の刺身も忘れなかった。
青い宝石のネックレスを雌猫にプレゼントし、
マンションの一部屋をまるごと猫のために装飾した。
彼はこの美しい雌猫にふさわしい男になりたいと思い、
アルマーニのスーツを新調した。
散歩のときのネクタイはシルクの黒、
スキンケアも欠かさなかった。
そのうちに女性がマンションで待ち伏せするようになったが、
オートロックの鍵は絶対に開けなかった。
彼の恋人は彼の雌猫ただ一人だった。
人間には一切興味がなかった。
彼はスワロフスキーのシャンデリアの部屋に
エルメスのシャツを着て猫を抱き、仕事をした。
もちろん猫のために家でできる仕事を選んだ。
母親は猫が嫌いなので縁を切った。
父親も猫アレルギーなので縁を切った。
友達もいなかった。
彼は雌猫と一緒にいて幸福だった。
彼はいつも、雌猫が死ぬときのことを思って怖くなった。
そこで、猫を安楽死させたあと、
自分も同じ薬を飲んで、
ある昼下がりに自殺した。


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