見出し画像

『胸の裡』

「ひとでなし」


『私』は、「ひとでなし」だ。

比喩ではない。事実だ。

『私』は、いわゆる種族的な「ヒト」ではない。

そう。

画像1

『私』は、人間ではない。


けれど。

『私』は、ヒトを超越した存在ではない。

『私』は人理を外れた、超常の存在ではない。

————むしろ、逆なのだ。


『私』は、ヒトたり得ない存在。

『私』はヒトでいられなかった、零れ落ちた、ヒトの欠片。


ヒト一人分の重ささえない————不完全な「ひとでなし人間もどき」、なのだ。

「心無い」


『私』には、心が無い。

比喩ではない。事実だ。

『私』の胸には――大きな穴が穿たれている。

それは、『彼』に与えられた傷。

それは、かつて人間であった頃の証。

それは、ヒトならざるものとなった『私』の――へそ

そう。

画像2


『私』には――心臓も、心も、存在しない。


『私』の胸の中は、完全な虚空。

心があった場所には、うつろな穴がひとつ、浮かんでいる。

その虚空は――『私』の右手をも、侵している。


画像3


虚空は”平等”だ。

不要なもの。
必要なもの。
大切なもの。

あらゆるものを――すべてを――飲み込む。

飲み込まれた先に何が待つのかは、誰も……私でさえも、知らない。


だから。

『私』は、人間にはなれない。一度失った心は、二度と戻らない。

そう。『私』も、かつては一人の人間だった。

ひとつの、ヒトの個体を保っていた。



けれど――かつての『私』は、ヒトであることに耐えられなかった。



わけもわからずに。
意味さえ知らずに。

ヒトの道を踏み外した――どうしようもない、愚かな少年だった。


画像4


その結果として生まれたのが『彼』であり。

画像5


同時に、私——レイ・ド・ブラン、なのだ。





        『私』のイラスト:紫色愛(https://twitter.com/417sskm?s=20)

いいなと思ったら応援しよう!