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手記
人は、忘れる生き物だ。
どんなに大切な思い出も。どんなに大事な人の記憶も。
時は残酷に、人から奪い去っていく。
人から転げ落ちた「ひとでなし」の私も、それは同じ。
かつて私を導いてくれた人々のことを、私はきっと、忘れたままでいる。
そして。
私は人のように忘れ行く存在で。
そして時を経ず、人から忘れさせていく存在でもあるのだろう。
この腕が持つ力は、きっと、そういうものだ。
そして、だからこそ。
私は過去を語ることを通して、私自身が忘れていた思い出を、記憶を、
思い出すべきなのだと思う。
そうすることが———忘れ行く存在と言う、人の性に逆らうことが、
私のこの腕の力を、紐解くことにも繋がるはずだから。
手始めに———そう。
私を孤独の淵から引き揚げた、彼女の話を。
次に語る時には、聞かせられたら良いと思う。