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手記

少しずつ、思い出してきた。

———僕の手は、たくさん失わせてきた。

奪ってきた、とは、少し違う。
僕は何も得ていない。僕には何も、返せるものがない。
僕はただ、何もできないまま、誰かの大切なものを、失わせていく。

だから、僕は逃げ出した。
元居た場所から離れようと、必死に足を動かした。

そうして、逃げた先で出会ったのが———彼女、だった。

「ありのままの自分を、受け入れること」
彼女は僕に、そのきっかけを与えてくれた。

僕が嫌っていた、怖れていた、僕の腕に触れて。
そっと、言葉をかけてくれた。

あなたのおかげで、今の僕が、私がいる。

———あなたはきっと、覚えていないだろうけれど。

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