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手記
もし。
僕の心を奪ったことで、誰かが形を持ったのなら。
きっとその「誰か」は、苦しむだろうと思った。
僕の心は、人に渡せるほど大層なものじゃない。
これは卑下とか、そういうことじゃなくて。
……誰だって、そうなんじゃないだろうか。
誰かに渡せるほど、自分の心が清く澄んだものだと公言できる。
そんな人間が、この世界にどれだけいるだろうか。
奪われた、抜き取られた瞬間の、僕の心は。
きっと、心としての機能を、十全に果たしていなかった。
だから———彼が得た僕の心は、おそらくは不良品だ。
世のほとんどの心が、完全でないとして。その中でも、とびきりの不良品。
だから、もし、もし彼が———人になりたくて、人間でいたくて、心を欲しがったのだとしたら。
彼はきっと苦しんで。
……そして、僕を恨むだろう。